『50歳の恋愛白書』発売記念インタビュー

「小娘にはない”お母ちゃん感”で男を包む」、岩井志麻子が語る”中年の恋愛”

2010/08/05 16:00
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 アメリカで公開されるやいなや「見逃してはいけない映画」と絶賛の嵐を巻き起こした、『50歳の恋愛白書』。ベストセラー作家の妻として、「理想の妻」を演じてきたピッパが、15歳年下のバツ1男・クリスと出会ったことから、自分らしい人生を模索するといったストーリー。ドラッグ漬けだったピッパの過去、略奪愛ゆえのトラウマ、母娘の葛藤など、邦題からは想像しがたい”ぶっちゃけた”ストーリーは、「中年の恋愛」という未知なる世界に怯える20代、30代女性に新たな道を示しています。

 そこで、今回は、『50歳の恋愛白書』のDVD発売を記念して、『オバサンだってセックスしたい』(KKベストセラーズ)を上梓し、今なお恋愛(?)を楽しんでおられる、作家の岩井志麻子先生に、「中年の恋愛」を語っていただきました。

――志麻子先生は『オバサン~』の中で、オバサンを「玉の輿に乗りたがる”商人女”」「良妻賢母と言われたがる”職人女”」「恋愛より不倫に燃える”芸術家女”」と大きく3パターンに分類されていましたが、『50歳の恋愛白書』の主人公ピッパはどのパターンに入りそうですか?

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岩井志麻子先生(以下、岩井) いや~どれに入るんだろ? うまいことやってますよね、このピッパって。ド不良だったくせに、いい妻の座に収まっちゃって。でも、私の友人でもね、不良だった人の方が、主婦になった時に落ち着いているんですわ。散々遊んだほうが、この幸せな家庭を守りたいって思うんでしょうな。


――この映画で、主人公ピッパが15歳年下のクリストとの出会いによって変わっていきますが、先生も、今の旦那さまと出会ったときって……。

岩井 彼が23歳で、私が41歳。あと5年前にずれていたら、私、逮捕されてますよ!

――こう言っちゃあなんですが、それこそ「オバサンの恋」ですよね?

岩井 そ~よ~。だからどんなに若づくりしても、若い娘さんには敵わないから、それこそ小娘どもに出せない「お母ちゃん感」を出したんですわ。実の息子と接するのと同じように、「アンタはいい子なんだから、今のままでええんよ」って。今の彼が好きだから、今の彼を肯定する。小娘みたいに「ああして欲しい」「ああなって欲しい」とは言わない。

――なるほど~。では年下ではなく、同じ世代だったら?


岩井 実際は同級生じゃなくても、同級生アピールをする。そうすると昔も付き合っていたような感じになるし。でも年下の男の場合、(ベッドインで)洋服を脱ぐときにいろいろ気になるけど、同級生だと「アンタも腹出とるやないか」って開き直れるところのがいいのよ~。ただ、今回の場合、ピッパのダンナはすごく年上でしょ? ジイさんになると、こちらを若い娘扱いしてくれるのがまたいいんですわ。70歳のジイさんからみたら、私もまだ若い娘ですし♪

――でもこの映画の場合、そのダンナがさらに若い娘と……。しかもその理由が、「妻に老人扱いされたから」っていう。

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岩井 私も老人になったら、老賢人というか、自分が老人であることを受け入れていると思っていたんですわ。ただ、若い女を追いかけていること自体、若さに執着していること。だって、私も自分が若い時に「若い男、若い男」なんて、追っかけてませんもん。今の年齢だからこそ、こんなに必死になって追ってますけど。

――言われてみればそうですね。では、若いころと今では恋愛の形って違いますか?

岩井 昔は傲慢でしたよ。おセックスにしても「させてやる」だったのが、今では「してもらえるの?」いや、「させてもらえるの?」ですもん。もう「あの人、私の体目当てなのかしら?」って悩んでいたことが懐かしいわ~。今は私が体目当てですからね。でも、この主人公はまだ「させてあげる」って思ってんでしょうね! だからこのピッパとクリスはうまくいかないと思う。

――えっ、本当ですか?

岩井 若い娘だろうが、オバサンだろうが、やっぱり恋愛に”障害”があるから燃えるわけでしょう? 主人公は夫からも、過去のトラウマからも解放されたんだから、もう夢から覚めちゃうでしょうね。私の仲のいい友達にもいますよ、「不倫したいから離婚しない」って人が。そういう人はね、「”ダンナがいる自分”が不倫している」ということにトキめいているわけ。うちの息子の彼女も、夜中に「今すぐ会いに来て! 会いに来ないと死んじゃうから」って騒ぐような地雷女なんですよ。でも、息子も面倒くさいと思いながらも、嬉々として行くわけ。息子の場合、面倒くさい女が好きという父親の遺伝子があるんだか、こんな母親を持っている環境なんだか……。

――環境も整っていて遺伝子も持ってる、エリートじゃないですか! 息子さんみたいに「面倒くさい女が好きな男」が増えてくれれば心強いのですが、「自分みたいな面倒な女はモテない」って悩んでいる女性も多いと思います。

岩井 いやね、『オバサン~』でも書いたんだけど、モテない人って「場所」を間違えているだけですからね! 私だってロリコン男とか「若い女が好きな男」なんて、絶対追っかけないですもん。逆にどこに行ってもモテる人なんていないわけですよ。いくら間口の広い私でも、「パリコレに出ているモデル」なんて連れてこられてたら、「日本人のそこらへんにいるサラリーマンに変えて~」って言いますもん。

――自分がどの「場所」でモテるのか、見極めが大変そうですが……。

岩井 ま~ね~。ただ、いっつも言ってるのは、モテる人を参考にしちゃいけないってこと。彼らは天才だから。モテない人を反面教師にして、「あれをやったらモテないんだな~」って学んだほうが早い。だから、熟女枠を狙うんなら、突出したオバサンにならないと。

――でも、この映画を見てて思い出したのは、本の中にある先生のオバサン分析です。オバサンは「自分が属している世界への、ゆるやかな愛と、どこか悲しみのある安心感」を持っているという。女の私が言うのもアレですが、女って本当に面倒くさいですね!

岩井 オバさんという所に「所属」はしていたいけど、「ちょっとだけ変わっているの、私」という満悦感もほしいっていうこと。ただ、所属先も他人にけなされたくないというね。だから、不倫が好きな人って、絶対に離婚しない。人間って本当にいやなことからは逃げるけど、それをしないのは本当は嫌じゃないから。そこに安住しているの。

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――先生も、10年ほど専業主婦時代がありましたよね?

岩井 あの時は、「このまま私って専業主婦として生きて行くのかしら」とか「他にもっと違う生き方があるんじゃないか」なんて焦りもなかったんですよ。「浮気したい」どころか、好きなタレント自体いなかったんですから。でも、おかげさまで今はこうやって話を聞いてもらったり、プロのカメラマンに写真を撮ってもらったりして、私の自己顕示欲やら自惚れやらを満たしてもらっていますが、もしあの頃のままだったら、週刊誌の熟女ヌードとかに応募したり、近所のかわいいコンビニ店員を誘ったりしていたのかなぁ。でも、そんなことも考えずに生きていたかもしれない。

――志麻子先生の周りにいるオバサマ方は?

岩井 今、オバサンやってる人って、若い時に髪をロングにしてミニスカートさえ履いてりゃ「美人」って言われたバブルを体験してる人が多いから、タチが悪いのが多いんですよ。もう一度、あの時代が来るって本気で思ってる。そんな中で、大仏みたいなパンチパーマかけて、胸元でトラが吠えている柄のTシャツを着てる”THE オバサン”やってる人って、もしかした解脱した徳の高い人なのかもしれない。「高僧」ならぬ「高オバ」みたいな。そういう意味では、この映画のキャラクターは潔いですな!

――では、志麻子先生が考える「中年の恋」というのは?

岩井 私ね~、ずっと考えているんですが、果たしてこの世の中に「恋愛」って存在するんでしょうか。

――ええ~!! 散々語って来たこのタイミングで、その発言ですか?

岩井 いやね、もう私に言わせたら、恋愛なんてものはなくて、「色事」なんですわ。性欲とか征服欲とか、それらをうまく「恋愛」って言ってるんじゃないかと。

――旦那さんとは「恋愛」じゃないんですか?

岩井 旦那はね……今も昔も体目当てです!!

――(笑)。この映画では、50歳になって15歳年下の男性との恋愛を前向きに考える女性が描かれています。志麻子先生も現在の旦那さんと恋愛を重ね、結婚されるという多くの女性が憧れるような人生を歩まれています。実際にそういった前向きな人生を歩むために、読者の方にアドバイスをいただければ。

岩井 恋愛は年齢ではないけど、どちらかが結婚している状態で別の人を好きになると、相手にバレた時に訴えられたりしますからね。リスクも覚悟しておかないと、危険ですね。ただ、何度も言っていますが、「障害」があるからトキめくわけで、結婚相手がいるから「不倫」になるわけです。なので、最終的には結婚相手にやさしくしてあげてほしいですね。この映画のようにいろいろあって50歳で新しい人生を決断するというのは勇気のいることだと思うけど、目の前にそのチャンスがあれば掴んでみるのもいいかもしれませんね。
(文・インタビュー=小島かほり)

『50歳の恋愛白書』

監督・脚本/レベッカ・ミラー 出演/ロビン・ライト・ペン、キアヌ・リーヴス、ジュリアン・ムーア 、ウィノナ・ライダー、モニカ・ベルッチ、ブレイク・ライヴリー、アラン・アーキン
発売元:ギャガ 販売元:ポニーキャニオン 発売中
(C)Lam Duc Hien,Photographer (C)Central Films Sarl,Morena Films SL,BetterWide Limited,Lumiere Internationallimited,LBF10Limite.2009,Studio Canal,All Rights Reserved.

 ベストセラー作家の妻ピッパは、家庭的で美しく、理想の女性として周囲から羨望の的。しかし、若いころは自己中心的な父と麻薬中毒者の母のもとから逃げ出し、友人のもとを転々とする毎日を送っていた。そんな彼女を救ってくれたのが、30歳も年上のハーブ。大きな代償と引き換えに、ハーブと結婚した彼女は落ち着いた日々を送るようになった。月日は流れ、50歳になったピッパは、近所に住む15歳下の男性クリスと出会い、心惹かれていく……。

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『オバサンだってセックスしたい』(KKベストセラーズ)

 これまできちんと語られることのなかった「オバサンのセックス」について、岩井志麻子先生が、自身や友人、取材してきた事件の登場人物などさまざまなケースを例に挙げながら、真正面から切り込んだ1冊。「モテるオバサン、モテないオバサン」「オバサンの取扱説明書」など、志麻子先生ならではのユニークな視点で書かれている。

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最終更新:2011/03/13 17:55