二人の最後の儀式に密着! 新たな門出を祝う離婚式に参加してみました
日本の離婚率が30%を軽く超えた昨今、”バツイチ”はマイナスではなく、人生の辛酸をなめた大人の勲章ともなりつつある。そんな中、新しいタイプの式が人気を博しているのをご存じだろうか? 別離を決意した男女が、新たなる道を歩むためのケジメとして挙げる――それが”離婚式”である。かつて愛し合った二人がいかにして離婚を選択し、この式を挙げるに至ったのか? どんなことをするのか? そんな疑問を解消すべく、とあるカップルの離婚式ツアーに参加させてもらった。
今回の式の主役は清楚な美人タイプの旧婦(仮名・27歳)とガッチリした体型の旧郎(仮名28歳)。参列者である旧郎の同僚とともに、待ち合わせ場所の浅草寺のベンチに、実に微妙な間隔で座っていた。離婚式場への移動は、浅草らしく人力車。夫婦別々の人力車に乗り、その後を参列者が追随する。2台の人力車と参列者の一行が、浅草の喧騒を抜けて静かな住宅街へ。事情を知らない外国人が「JINRIKISHA!」とカメラを向けるが、この時点では旧郎旧婦にも参列者にも笑顔はゼロ。
『Re:婚式』という看板が掲げられた民家の前で人力車は止まった。正面には離婚式メインキャラクターである”離婚ガエル”がイエス様の代わりに二人の船出を見守っている。まずは参列者が会場に入り、受け付け。二人へのメッセージをしたためた後、引き出物として頂いたのは箸。二本揃わないと使えない――この箸のようにヨリを戻して欲しいという思いが込められているのだとか。それにしても苦慮するのがメッセージ、めでたいと取るべきか否かに迷う。とりあえず「別れは出会いの始まり」と、卒業式の寄せ書き定番メッセージでお茶を濁した。
いよいよ式がスタート。一軒家の軒先で、このツアーの主催者であり離婚式プロデューサーの寺井広樹さんから、二人の離婚への経緯が説明される。「婚活ブームまっただ中の2008年に結婚されたお二人ですが、旧郎の仕事上のトラブルや異性関係のもつれなどにより離婚を決意され……」とオブラートに包むふりをして、結構ど直球な別れの理由が淡々と述べられる。何ともやるせない空気がやってきたところで、張本人である旧郎が「今日で一区切りつけ、改めて頑張ってまいります」と前向きな挨拶。一方旧婦は「今日は日曜の昼間から集まっていただき、本当にありがとうございます」と気丈にも参列者への気遣いを見せていた。こんなところにも、相容れない男女の方向性が。
その後、最も微妙な立場に立たされている参列者、友人の井筒さん(仮名)が参列者を代表して一言「離婚、おめでとうございます」……その言葉に”マジ?”と誰もが息を飲み、旧婦の目が尋常ではない光を放った。やるせない空気が、不穏へと変わった一瞬。
に終わる夫婦生活
二人のフラストレーションが一気に高まったところで、離婚式メインイベントであり、「二人の最後の共同作業」でもある”指輪のハンマー叩き割り”へ。離婚ガエルをモチーフにしたハンマーを静かに握る二人。目の前には恋人時代に旅行先で買った想い出の指輪。息を合わせて、「せぇーの……」。カーンと強烈な音を響かせて、指輪はあとかたもなく粉々に。無言の二人はつぶれた指輪を拾い、離婚ガエルの体内に奉納。こうして無事離婚式は終了した。
「記事を書く上で、結婚すらしていないけど、離婚式を挙げてみたい」ということで、無理やり離婚式をさせて頂いた。自分の薄っぺらな人生ではリアリティーがないので、現在、離婚問題が暗礁に乗り上げているハイパーカップル高城剛氏と沢尻エリカ嬢に代わって、”指輪叩き割り儀式”を体験。きっとスペイン(新婚生活の拠点)のどこかで買ったであろうという指輪にめがけて、ハンマーを振り下ろす。二人の間の揉め事なんて何一つ知らないが、それでもやっぱりスッキリとした。「エリカ、もう尻をハミ出しちゃダメだぞ」「あなたこそ、ハイパーとかいう変な肩書を捨ててね」。二人に代わって固い約束を交わし、離婚式の予行練習は終了。
その後、浅草観光でお馴染みの雷5656会館にて、離婚披露宴さながらの会食へと移る。観光客が飲めや歌えやの酒宴を繰り広げる大広間の片隅、浅草の景観を一望できる窓際のテーブルには”離婚式ツアー御一行様”の文字で席を確保されている。旧婦と旧郎は背中合わせに座るのがルールだが、困るのは参列者たちである。どっちに座ればいいの……? 結局アンニュイな表情で外を眺める旧婦の隣にお邪魔して、ほうじ茶でカンパイ。自虐ネタで盛り上がる旧郎テーブルの笑い声を背中に、黙々と深川飯をかきこむ旧婦テーブル。編集Sがようやく口を開いたかと思いきや「もう、離婚届は提出されたんですか」といきなりのストレート勝負。「明日出す予定です。これでケジメをつけられます」と静かに語り、また視線を窓の外へ移す旧婦。離婚後は故郷に戻るという。まだまだ若く美しいその横顔には、これからの未来を十分期待できるだろう。離婚式がもたらす意味が、少しずつ分かり始めた。
5656会館を後に、浅草見物する御一行。人力車で練り歩いたときからは比べ物にならないくらい、和んだ雰囲気で心なしか二人の距離も縮まっている。指輪叩き割りの効果なのか、ふっきれた女の強さなのか、旧婦の表情はすっきりしている。「指輪って、意外と簡単に割れるんですね」フフっと笑っていた。
最後のイベントは、浅草名物カリカチュア(似顔絵)の店へ。朝は目も合わさなかった二人が、同じソファーに並び、今日初めて言葉らしい言葉を交わしている。あっという間に似顔絵は完成、お店のスタッフが絵を渡そうとすると、思わず二人で同時に手が伸びた。出来上がった絵には二人がそれぞれ持ち帰れるように、真ん中に点線が描かれている。それ上手に切り取って、今日の想い出の品に。これで旧郎旧婦の新たなる船出、離婚式は全てのイベントを終了。二人の背中が浅草の賑わいに消えて行った……。
■参列者からの思わぬプロポーズも?
今回の式は、終始なんとも不思議かつ不穏な空気に包まれていたが、そもそも離婚式はどういう経緯で始まったのか、プランナーの寺井さんに伺った。
「そもそもは先輩が離婚するという話を聞いた時に、日本人は卒業式など節目の儀式を大切にする民族なのに、どうして離婚式だけはないんだろう思って、先輩に”離婚式”をさせてほしいとお願いしたんですよ」
そこに参列していた人に離婚式を頼まれるなど、口コミで話題が広がり、去年はなんと6組の元カップルが離婚式を執り行った。中には、指輪叩き割り儀式の時、何度叩いても指輪が割れなかったカップルは、「これは離婚するなってことじゃないですか?」と何気なく口にした寺井さんの言葉が琴線に触れたのか、その後「やっぱりもうちょっと考えます」と離婚を見直したという。
一見非情にも見える、参列者前での離婚原因の”暴露”も、離婚式にとって非常に重要なファクター。「男性側の女性問題が原因での離婚の場合、女性は必ずその旨を入れることを希望されます。ただ”浮気”という言葉はなるべく使わず、表現はやんわりとすることを心がけています」とのこと。「離婚式辞の後、二人の間のフラストレーションは否が応にも高まる。そこで指輪叩き割りの儀式へ。あそこで今までの恨みやら何やらを弾け飛ばすんです」。
中にはこんな驚きの展開も。「参列者の方が、挨拶で”実は僕、ずっと前からあなたが好きでした!”と旧婦にプロポーズをしたこともあったんですよ。本当に離婚式は三者三様。何が起こるか分からない。だた、離婚式を挙げられるカップルというのは、理想ですよ。もし本当に憎み合っていたら、式なんて心境じゃないでしょうから」。
今回の離婚式、申し込んだのも離婚原因を作った旧郎側だそう。心中穏やかでないだろう旧婦に「どうして離婚式を了承したんですか?」と聞いたところ「最後のお願いだから、聞いてあげようと思って」。犬も喰わない夫婦喧嘩が、シャレにならない状態になったとき、その夫婦の本当の資質が問われる。「離婚とは?」とその前に、結婚自体の意味や本質を考えさせられた”離婚式”。チャペルの前で愛を誓った二人は、浅草寺の梵鐘に何を思ったのだろうか。
(西澤千央)
◆離婚式ツアー
浅草寺に集合。その後、人力車で「離婚屋敷」に移動し、離婚式を執り行う。界隈で昼食を食べ、浅草見物へ。最後に似顔絵を描いてもらい、終了。参加料は一人4,500円(似顔絵なしは3,000円)。寺井さんが旧郎・旧婦の希望の場所に赴いて離婚式を執り行う場合は、5万円から。
嶋さんが言ってるから間違いナシ!
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