海外
[連載]海外ドラマの向こうガワ

“冤罪大国”アメリカの不安感をドラマ化した『プリズン・ブレイク』

2009/12/13 17:30

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 訴訟社会といわれるアメリカの裁判では、1994年のO・J・シンプソン事件裁判のように、大金で「腕がよく、実績もコネもあり、陪審員を説得させることができる」弁護士を雇うことができれば、限りなくクロでも無罪を勝ち取ることができると言われている。逆に冤罪率も高いとされ、一説によると年間1万人以上が冤罪であるにもかかわらず、投獄されているといわれている。犯罪の多いアメリカでは、刑事裁判のほとんどのケースで司法取引が行われており、これも冤罪を引き起こす原因になっていると指摘されている。

 裁判で有罪になると、これまた弁護士の腕次第で刑罰の重さや懲役年数が決まることになり、服役する刑務所が決定することになる(アメリカでは州により法律が違うため、同罪でも州によって死刑になったり終身刑になったりと大きく異なる)。

 アメリカの刑務所は日本とは比べものにならないほど、「自由」だと言われるが、これもケースバイケース。刑務所により警備レベルが異なり、警備レベルが低い刑務所は「囚人も人間らしく」をモットーにとても自由な服役生活を送っているが、世間を震撼させるような重犯罪を犯し死刑、終身刑、100年、200年を超える懲役刑判決を下された者たちが収容されるマキシマム・セキュリティー・プリズン(最高度警備体制がひかれた刑務所)では刑務所内での麻薬売買、ギャング同士の抗争、死亡事件、レイプにリンチなど想像を絶する出来事が連日勃発している。

 刑務所でレイプされ続けたことがトラウマになり、出所後レイプ魔になり再逮捕された犯罪者もいるほどであり、人格をも破壊するといわれるマキシマム・セキュリティー・プリズン。連日暴動が起こるため作業場や食堂などに催涙ガスシステムが設置されているほどなのである。

 もし、冤罪でこのような刑務所におくられたとしたら……陪審員制度のアメリカでは、そんな気持ちを誰もが持っており、それゆえ「刑務所」をテーマとした映画やTVドラマが昔から制作されてきた。冤罪被害者にとって最後の選択肢である「脱獄」をテーマとした作品も多く作られている。

 2005年、『24』などハリウッド映画顔負けの本格派TVドラマを放送している米FOXネットワークで、脱獄そのものをタイトルとしたドラマがスタートした。それが、主役のウェントワース・ミラーを始め、イケメン俳優が多く出演していると日本でも話題となった『プリズン・ブレイク』である。

■サスペンスを支える、兄弟愛

 物語の主人公はIQ200の優秀な建築設計士マイケル。何不自由なく暮らしていたマイケルだが、兄が副大統領の弟を射殺したという罪で逮捕され、異例のスピードで死刑判決を下されてしまったことに深い不信感を抱き、兄の冤罪を信じ、救い出そうと心に決める。事件の背後には大きな組織が関わっていると察知したマイケルは、脱獄しかないと判断。全身に脱獄するために必要となるタトゥーを入れ、自ら犯罪者となって兄と同じ刑務所に入る、というところから物語はスタート。

 性格も外見も、全てが異なる兄弟の深い絆が軸となっていること、主人公が頭脳明細でルックスも超一流という点でも注目されただけでなく、放送局であるFOXが大々的な広告キャンペーンを放送前に全米で展開させことも功を成し、第一話目、いわゆるプレミアの視聴者数は軽く1,000万を超えた。

 目に見えない大きな組織の不気味な動き、でっち上げられた冤罪、裁判システムの落とし穴、刑務所という閉じられた特殊空間でのモラルなき出来事など、アメリカ人が普段から疑問に思っていそうな要素をふんだんに取り入れている点でもドラマへの関心度が高まり、ドラマはたちまち大ヒットした。

 エピソードを重ねるごとに、刑務所内での受刑者や監視官とのやり取りはリアリティーがあると評判に。脱獄計画を進めるにあたり、誰が敵・味方なのか分からないスリル感、人間を信じる/信じない心などスリル・サスペンスに加え、ヒューマン的なスパイスも加わりドラマのクオリティーも高く評価されるようになった。

 脱獄後も、ただがむしゃらに逃げ続けるのではなく、アメリカを守るエリート集団として絶大なる権力を誇るFBI連邦捜査員、CIAアメリカ中央情報局からの陰謀者たち、国民には公開しないダークな部分を持ち続けている政府の関係者との知恵比べなど、ジェットコースター的な展開の中にも知的要素が見え隠れし、高視聴率をマーク。

 日本でも12月2日にリリースされたファイナル・シーズン(DVDコレクターズBOX2)では、これまでの総集編といった感が強く、黒幕との全面対決というファンが待ちに待った展開となり、究極のサスペンスを味わせてくれる。また、中毒的なファンのために、もう一つのバック・ストーリーとして制作された『プリズン・ブレイク ファイナル・ブレイク』も日本でも2010年2月3日にリリースされるが、こちらも見逃せない。

 アメリカの大組織が隠したいダークな部分にフォーカスを当てた『プリズン・ブレイク』。いろいろな意味で「やはりアメリカは恐ろしい」と、再確認させられる。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『プリズン・ブレイク』ファイナル・シーズン ブルーレイBOX

坊主に萌える~


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最終更新:2009/12/13 17:30
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