日米の個人主義、家族崩壊に立ち向かった『ブラザーズ&シスターズ』
――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!
現在、アメリカでは家族崩壊が社会問題となっており、一昔前の「仲良い夫婦、元気な子供たち、笑いが耐えない、深い絆で結ばれた健全な理想的家族像」は、今や存在しないとさえ考えられている。
その背景には、社会の流れと共に人々の価値観が「家族主義」から「個人主義」へと変化してきたことがある。「家族としてお互いを支え、協力しながら一緒に成長していく」ことを「家族の中にいると問答無用に役割を担わされ、家族の一員としての責任と義務を押し付けられる」と鬱陶しく思い、家族の中に身を置くことの利点を見出せないのであろう。
家族崩壊のもう一つの大きな原因は、増加する離婚だとされている。女性が抵抗なく離婚できる社会になったことが、家族という「一つの小さな社会」を崩す原因になったというが、現代のアメリカでも夫婦関係が破綻状態にあっても宗教上の理由で離婚を我慢している妻は大勢いるし、結婚を一種の「契約」だと捉え踏ん張り続ける妻もいる。また、離婚をして女手一つで子供を立派に育てたり、再婚後も父親の異なる兄弟姉妹を一つにまとめ育てあげる母親もいる。
機能不全家族であっても、子供たちに家族の暖かさを与え、感謝祭やクリスマスには「帰りたい」「戻りたい」と思えるような家を作るのは、母親の器量次第。一族を一つにまとめ、絆を引き寄せられるのは、ずばり母親という存在なのである。
ここ10年、アメリカで制作されているファミリー・ドラマも、『シックス・フィート・アンダー』『7th Heaven』など家族内で両親と子供が激しく対立したり、不貞、心理的/身体的虐待など、イザコザが耐えない「機能不全家族」がテーマのものが目立つが、その決定版ともいえる作品が2006年に放送開始となった。『アリー my ラブ』で主人公アリー・マクビールを演じ一世を風靡した、キャリスタ・フロックハート主演のドラマ『ブラザーズ&シスターズ』である。
放送前は、ハリソン・フォードの子供を出産し、第一線から遠ざかっていたキャリスタの4年ぶりカムバック作として注目を集めたが、ふたを開けてみると母親ノラ・ウォーカー役のサリー・フィールドの圧倒的な存在感と演技力に話題が集中。なんといってもサリーなしでは語れない作品となっている。
■母娘関係を中心に描く、”緊張した”家族
物語は、キャリスタ演じるキティ38歳の誕生日のために、兄弟姉妹が両親の元に集まるところから始まる。事業家として成功を収めた父親のもと裕福に育ってきたが、何かしらの問題を抱えている5人の兄弟姉妹たちは、久々の再会を喜び、昔話に花を咲かせ、近況を語りあう。が、そんな楽しい場で突然父親が心臓発作を起こし、あっけなく急死。父親は、家族に秘密にしていた数々の大問題を遺して逝ってしまい、兄弟たちは戸惑いながらも母親を中心に「ぶつかりあいながら」力を合わせ、難問を乗り越えていく。
キティと母親の間に流れる緊張感のあるピリピリした空気、逃れられない現実に立ち向かうため兄弟が全てをさらけ出し本音で語り合う姿が、同じく機能不全家族の中に身を置く多くの大人たちの共感を呼び、ドラマは放送直後から大ヒットとなった。
実は、当初母親ノラ役は実力派舞台女優として知られているベティ・バックレイがキャスティングされていた。しかし、大柄で銀髪の「どっしりと構える」エレガントな雰囲気のベティではなく、もう少し喜怒哀楽がはっきりしており、神経質そうな「いかにも母親といった感じの女性」をと見直しがされ、アカデミー賞とエミー賞をそれぞれ2回獲得していた、サリー・フィールドへと配役変更となった。
サリーは『ER 緊急救命室』で機能不全家族の申し子ともいえるキャラクター、アビーの「この上なくダメな母親」役を演じエミー賞を受賞しているが、『ブラザーズ&シスターズ』では、同じ機能不全家族の母親であっても、子供たちの良き理解者であろうと一生懸命がんばる母を演じており、これが視聴者の感銘を呼び、作品を大成功へと導いた。
また、秘密、ゴシップ、ユーモアなどが、家族間にあるというのも現実的であると高評価を得た。大人の駆け引きやセクシーなシーンだけでなく、同性愛やセックスレス夫婦、不倫など様々な要素が散りばめられており、飽きることなく物語が展開していくのもドラマの魅力といえよう。
日本でも11月4日にリリースされたシーズン2では、父親の死から1年経ち、更なる試練に直面したそれぞれの兄弟たちと、息子を戦地に送り出し毎日押し潰されそうな気持ちで過ごす母親の姿が描かれており、視聴率を伸ばし続けている。
機能不全家族としての理想の姿を描いた『ブラザーズ&シスターズ』。日本でも増えている「機能不全家族」なりの幸せの方程式が、このドラマで見つけられるかもしれない。
堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。
『ブラザーズ&シスターズ』シーズン2 COMPLETE BOX
母娘関係は永遠の悩みです
【バックナンバー】
・摂食障害まで!? 『愉快なシーバー家』の知られざる制作秘話
・手厳しいアメリカ・メディアも大絶賛! 20年に1本の名作『マッドメン』
・“儲かる”と”面白い”を両立させた、『ゴシップガール』の人気の秘密は?
・“ヒーロー”を探し求める米国人を充足させた『HEROES』の世界観
・苦い思い出が故!? 『ヴェロニカ・マーズ』がアメリカでウケる理由とは
・エミー賞から見る、次のブレイク海外ドラマはコレだ!
・『Dr.HOUSE』に見る、イギリス人役者のハリウッドでの成功例
・アメリカのヒスパニック社会が生み出した、『アグリー・ベティ』という動き
・『アルフ』の魅力は声優と、地球に向けられた優しいまなざし!?
・出演者もカミングアウト! レズビアンが作り出す”Lの世界”のリアル
・現代版『ビバヒル』はセレブと貧困の格差を描く『The OC』
・全米のティーンが熱狂する『ハンナ・モンタナ』に見るリアル・アイドル像
・見ていてじれったい! 王道ラブストーリーの『グレイズ・アナトミー』
・サラ・コナーが21世紀の”強い女性”を体現した、TV版『ターミネーター』
・最終話が衝撃的!? ”母親不在”を乗り越えた『フルハウス』の魅力とは