サイゾーウーマンカルチャーインタビュー気鋭の女性編集者たちにとっての「ドボク・エンタテイメント」とは(後編) カルチャー 住宅都市整理公団総裁・大山顕が訊く 気鋭の女性編集者たちにとっての「ドボク・エンタテイメント」とは(後編) 2009/10/01 11:45 カルチャー (前編はこちら) 大山 あと、これもまぁ、半分偏見だろうなって自分で思いながら言うんですけど、男ばっかりで本作ると理屈をちゃんとどんどん説明しなきゃってなるかも。これは何年に作られてどういう意味があって構造的にはどうで、とか。だけど、おふたりと本作ったときってそういうのまったくなかったよね。 角田 そうか、自分であんまり意識してなかったです。あの本は「みんなも好きでしょ」だけでできてる。仕組みを知るのはもちろん面白いけど、知らなくても面白いよね、っていうスタンスなので、どうしても説明しなきゃっていう強迫観念はまったくない。 大山 たぶん、マニア的な本を出してきた編集者だと、たぶん「工場萌え」のつくりかたって不安でしょうがないと思うの、何にも説明しないんだもん。役立つ要素が何もない。 編集部 聞いてて、やっぱりこのおふたりがつくったから女性にも受けたんじゃないのかなって思いました。男性の編集者だと、「中の人」を意識して作るような本を作りたがると思うんですよ、プロに見せても恥ずかしくないっていうか。 大山 それはあるかもしれない、「恥ずかしい」っていうのは、キーワードかも。知識豊富な人に対して、恥ずかしいと思ったことがない、そういう話にもなったことがない。 ■説明じゃなくて共感 雨宮 ドボク的な趣味を持っている人たちって、もちろん知識が豊富な方はたくさんいるんですが、「自分はこんなに知ってるんだぞ」っていうことをことさらに強調したりとか、「初心者」に対して「そんなのも知らないの? それじゃ駄目だね」みたいに閉じるようなところが少ないなって感じます。それはすごく居心地がいい。 大山 「居心地」っていい言葉ですね。いわゆるマニアって納得したい、説明したいっていう欲求があるんだけど、たぶんドボク系の人たちは、共感したいっていうくらい。 雨宮 『高架下建築』の時には、帯に「かわいい」っていうような感覚的な言葉を入れよう、というアイディアがあって。結局入れなかったんですが、ドボクに対して、あえてそういう感覚的な言葉を使ってみようというのはありましたよね。あと、版型決めるときも、かわいらしい雰囲気にするために四六の横サイズっていう、こういう写真集にしてはかなり小さいものにした。あとからもうちょっと大きいほうがよかったかな、とも思ったりはしたんですけど(笑)。 角田 出してから後悔はしますよね(笑)。 雨宮 最近出た『壁の本』は、著者の杉浦さんは女性なんですけど、デザイナーさんも女性で、みんな女性だったんです。みんなと言っても3人ですが(笑)。それで、それはこの本にとってはとてもよかったなと思っています。 角田 『壁の本』すごくかわいいですよね。 雨宮 名久井直子さんっていう、すごくかわいらしい中にもピシッと芯のあるデザインをされる方にお願いしたら、結果的にすごくうまくいきました。まさにイメージ通り。元々杉浦さんの壁写真もご存知で、好きです、と言ってくれて。写真を選ぶときにも、ずいぶんいろいろとアドバイスをしてくれました。もちろん、女性じゃなきゃダメだってことは全然ないんですけど、こういう本の場合、女性だとなんか感覚的にわかってくれそう、というか、雰囲気としてこういう感じにしたいっていうのが、言葉を尽くして説明しなくても伝わるのではないか、というのはありました。 大山 説明じゃなくて、まず「共感」をしてもらいたい、っていうのはいいね。 雨宮 ものにもよるとは思うんですけど。 大山 男性でもそれは、わかるわかるっていうのはあるんでしょうけど。 角田 「壁の本」の場合、女性の方がヒット率は高そうですね。 大山 さっきからこの場で飛び交ってる「かわいい」とか「すてき」とかっていう言葉で、表現として充分だと思ってるっていうのがいわゆる「男性的」なマニアとは違うのかな。 雨宮 ドボク好きがそういう「かわいい」とか「かっこいい」という表現を使うとき、これは俺が先に見つけたんだ、俺のもんだ、みたいな縄張り的な感覚は薄いんじゃないかって気はします。そういうのって、独占というより、共感を求めるものですよね。 大山 それすごいおもしろい! 「ドボク」だからだよね。公共物だからどうやったって所有なんかできないし、縄張りも何もない。 角田 巨大だし。 雨宮 みんなのものって感じ、けっこう自然に対する感覚と近いのかもしれないですね。 * 半信半疑で挑んだこの「ドボクと女性」でしたが、思いの外考えさせられる内容になりました。まあ、「女性だから」「男性だから」ってそんな簡単な話じゃないでしょうけど、「ドボクを愛でる」っていういままであまりなかった趣味が、従来の男性的なマッチョな「マニア」とは異なる文化を持っているんじゃないか、というのはうなずけます。みなさんどうですか。どうですか、って言われてもこまると思いますが。興味があるかたはぜひこれらドボク本を手に取ってみてください! (取材・構成=大山顕[住宅都市整理公団]) ●大山顕(おおやま・けん) 公営団地を紹介するWEBサイト「住宅都市整理公団」総裁。団地や工場のほかにもジャンクション、水道管、螺旋階段、高架下建築、地下鉄ホーム、駅のパイプ群など幅広い鑑賞趣味を持つ。写真集『ジャンクション』、著書『工場萌え』『団地の見究』ほか。 http://danchidanchi.com/ ●角田晶子さん(東京書籍)の主な担当「ドボク」本 左から『工場萌え』、『工場萌えF』、『団地見究』 ●雨宮郁江さん(洋泉社)の主な担当「ドボク」本 左から『高架下建築』、『僕たちの大好きな遊園地』(洋泉社MOOK シリーズStartLine 15)、『壁の本』 最終更新:2011/03/13 21:56 次の記事 『ターミネーター2』のエドワード・ファーロング、麻薬癖&妻に暴行 >