『アルフ』の魅力は声優と、地球に向けられた優しいまなざし!?
――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!
「UFOにさらわれた!」「エイリアンに襲われた!」「政府は地球外生命に関する情報を握っている!」というB級ネタが大好きなアメリカ人。彼らの「奇抜な発想」や「豊かな想像力」はテレビ界にも生かされており、今からさかのぼること半世紀以上も前から宇宙やエイリアンを題材にしたドラマが制作されている。
1959年に放送開始された『トワイライト・ゾーン』を皮切りに、1965年には「アメリカ政府の惑星殖民政策により宇宙へと飛び出した」家族のスペース・ファミリードラマ『宇宙家族ロビンソン』が、翌年には『宇宙大作戦スタートレック』がスタート。単なるSFファンタジードラマに留まらず、作品を通して当時アメリカが抱えていた差別問題や社会問題なども描き、人々の意識改革を促してきた。
また、人間そっくりのエイリアンが「ひょんなことから」地球に住むようになる、というストーリーラインも人気で、1963年に放送開始された「地球に不時着した人間そっくりの火星人」が繰り広げるコメディ『My Favorite Martian』や、70年代後半に入ると、当時駆け出しの役者だったロビン・ウィリアムズ演じる「オーク星からやって来た人間そっくりの宇宙人」のコミカルな物語『Mark & Mindy』が登場。
とどまることを知らないエイリアン人気だが、1982年に映画『E.T.』が公開されたことにより大きな転機を迎える。「人間そっくりの宇宙人」が主人公でなくても、脚本次第で人々をひきつける、「ホラー」ではない「ヒューマン」な作品が作れることが証明されたのだ。
『E.T.』に影響を受けたプロデューサーは多いが、人形使い師で声優としても活躍していたポール・フスコも同作品にインスピレーションを得た一人であった。彼は自宅に「ちょっと奇妙な」人形を持っており来客を驚かせるネタとして使っていたのだが、これを主人公に新しいタイプのエイリアン・コメディを制作したいと1984年、大手ディズニー社にアプローチする。
ディズニーからは断られたものの、その後、売り込みにいった米三大ネットワークの一つ、NBCが「典型的なアメリカ人家庭に、突然エイリアンがやってきて、一緒に住むことになる」というコンセプトに興味を示し制作、放送が決定。世界中にコアなファンを持つ『アルフ』は、こうして1986年に誕生したのだった。
ロサンゼルス郊外に住む、中流家庭タナー家のガレージで、主人が趣味のアマチュア無線にいそしんでいたある晩のこと。突然「自分の住む星が爆発し消滅したため、宇宙難民となったエイリアン」の宇宙船が、ガレージ目がけて空から降ってきた。毛むくじゃらのエイリアンを、家の主人はアルフ(ALF=Alien Life Form(地球外生命)と呼び、同情した家族と共にかくまうことにする。
未知の世界からやって来たアルフは、親切なタナー家の暮らしを派茶めちゃにかき回すトラブルメーカー。しかし、次第に友情が深まっていき、いつの間にか「なくてはならない」存在になっていく、というシンプルなストーリーなのだが、放送直後から番組は高視聴率をマーク。
『E.T.』にインスパイアされたとはいえ、『アルフ』の主人公はE.T.とは似ても似つかぬエイリアンである。毛むくじゃらで、鼻は大きく、つぶらな瞳を持ち、エイリアンというよりかは動物のような外見だが、どこまでも人間くさく、口達者で辛口ジョークが大の得意。「クラスに一人はいそうな」空気の読めない奴といった性格だが、「会話にはパンチの効いたジョークを混ぜることが大事」と考えるアメリカ人には大うけした。
また、『アルフ』は、これまでのエイリアン作品とは異なり、宇宙ではなく地球に目を向けさすエピソードが多く、祖星を無くしたアルフが地球温暖化や核開発、核所持などに強く意見を述べるシーンがよく登場した。
80年代後半は、地球温暖化問題がフォーカスされるようになり、オゾン層を破壊すると世界各国で「フロンのスプレーへの使用」などフロンガス規制がされるようになった時期である。この時事ネタを『アルフ』では「説教くさくない」よう上手に取り入れており、子供にとってよい影響を与えると、高く評価された。
■キャラクターを支えた豪華声優陣
人気は愛嬌のある毛むくじゃらの外見にぴったりのアルフの独特の声にもあった。アルフは世界80カ国以上で放送されており、それぞれの国の言葉に吹きかえられているが、不思議とどの国でも「アルフの外見と声がぴったり」と好評なのだ。
吹替えの声優を選ぶ際、「声質が似る」基準となる顎の骨格が似ている声優/俳優を選ぶ傾向にある。しかし、人間ほど表情の変わらないアルフの気持ちを表現できる「才能」のある役者を選ぶのは、各国、至難の業だったようだ。
日本ではアルフの声役を、「多彩な才能の持ち主」として知られる所ジョージが担当。ジョークの放ち方から笑い声までぴったりだと多くの日本人ファンを生んだ。また、アルフと最も絡みの多いタナー家の父親、ウィリーの声を小松政夫が担当。トニー賞にノミネートされたことのある演技派俳優マックス・ライトの表情に声がぴったり当てはまると、こちらも大好評であった。
多くのコアなファンを生んだ『アルフ』だが、日本での放送回数は実は少なく、DVD化を求める活動をファンたちは長年続けてきた。一昔前の海外ドラマがDVD化される際、販売権や著作権などの問題から声優を変えることが少なくないが、ファンたちは「所ジョージと小松政夫」の『アルフ』を求め、根気強い活動を続けたのである。
彼らの願いが叶い、8月26日には『アルフ』ファースト・シーズン、コレクターズBOXがリリースされる。もちろん吹き替えは、所ジョージと小松政夫。
シニカルでコミカルだけれど、メッセージがたくさん詰まった地球に優しい『アルフ』。ストーリーを楽しむだけでなく、家族を、そして私たちの地球を考えるよいきっかけを与えてくれること間違いなしだろう。
堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。
これを見ると、所ジョージの魅力が5割増!
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