人生リセットしたら幸せになれる? 『サマンサ Who?』で疑似経験
――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!
アメリカ人は「セカンド・チャンス」という考え方が大好き。
「セカンド・チャンス」とは、失敗しても、大きな間違いを犯しても、それを正す機会が必ず与えられる、という「この上なく都合のよい考え方」のこと。長い人生、誰しも一度はリセット願望を持つことがあるだろうが、「セカンド・チャンス」を信じているアメリカ人ほど本気で「リセットは可能」だと考えている人間はいない。
アメリカ人が大好きな、この「セカンド・チャンス」をコンセプトとしたドラマ『サマンサ Who?』が2年前、米ABCネットワークで放送開始となった。交通事故がきっかけで記憶喪失になった主人公サマンサが、「ナイスボディと美貌を鼻にかけ、シングル・ライフを謳歌する、生意気で超ワガママなサイテー女」だった事故前の自分に別れを告げ、「良識ある、よい人間として」新しい人生を進むことを企むというストーリーで、ドラマは放送直後から大ヒット。2007年度新作コメディ視聴率No.1の座を獲得した。
「記憶喪失を絶好のセカンド・チャンスだとポジティブに利用し、人生をリセット」しようと奮闘する女性をコミカルに描き、笑えるシーンがとても多い作品なのだが、「セカンド・チャンスは、そう簡単に手に入れられるものではない」「そうそうスムーズに人生などリセットできるはずなどない」と、毎回チクリと釘をさすことも忘れない。
例えば、シーズン1第8話「車」。サマンサは「生まれかわろうと頑張る今の自分」を信じ、愛車を貸してくれた父親の気持ちを踏みにじるような自損事故を起こし、それを隠そうと「とんでもないこと」をしてしまう。
父親の気持ちを考えるたびに心が痛み、「正しいことをしなければ!」と葛藤するものの、母親から「とんでもないことをするのは遺伝だから、仕方ないわよ」「ビッチは血筋的なものだから、直らないわよ」と、気持ちが萎えるような言葉を浴びせられてしまう。
しかし、ドツボにはまっても「自分ができる範囲」で、何か一つはチェンジしようとサマンサは努力する。これまで傷つけた人たちへ誠心誠意でフォローをしたり、改心や更生をしようと頑張ったり。マイペースであるが、一歩、一歩、「いい人」目指して歩み続けるサマンサの姿に、セカンド・チャンスを掴んでも、結局は自分の努力次第なのだと視聴者は教えられ、勇気づけられるのだ。
ほかに、『Sex and the City』『アリーmyラブ』のような、30代シングル女性の本音を、時には少々ドギツク、赤裸々に描いている点も同作品の大きな見所となっている。タイプが全く異なる3人の女性の「微妙」な友情関係や、わだかまりの多い母娘関係もドラマをスパイス・アップする魅力となっており、幅広い層の視聴者をひきつけ離さない。
■主演女優がセカンド・チャンスを体現
また、主人公サマンサを演じる女優クリスティーナ・アップルゲートの勇気ある告白に、多くの女性が感銘を受け、励まされていることも、ドラマの人気を支えている大きな要素だといえよう。
クリスティーナは、『サマンサ Who?』シーズン1が大ヒットし、シーズンブレイクに入った2008年8月に乳がんであると診断された。片胸に発症した早期がんであったが、「遺伝的に乳がんリスクの高いBRCA1患者」であることが判明したため「転移、再発防止のため」両胸の乳房切除手術を受けたと告白したのだ。
子役としてキャリアを積み上げ、90年代に、大ヒットTVコメディで大ブレイク。日本でも人気がある『フレンズ』にゲスト出演しエミー賞を受賞している実力派女優であるクリスティーナだが、当時36歳。両胸の乳房切除手術を受けたと告白することは簡単なことではなかったはずだ。彼女のおかげでBRCA1に対する認知度が上がったといっても過言ではなく、手術後、すぐに復帰し元気な姿を見せたことも、多くのがん患者に希望を与えた。
辛いがん治療を克服したクリスティーナが演じるからこそ、セカンド・チャンスがテーマの『サマンサ Who?』は説得力を増し、多くの視聴者を虜にするのだろう。
小さな改心が大きな幸せへと繋がっていくこと、人間はとても寛大であること、そして、どんな人でも人生リセットができることをメッセージとしている『サマンサ Who?』。客観的に自分を見つめ「変わりたい!」と思った瞬間、人間はセカンド・チャンスを手に入れられるのかもしれない。『サマンサ Who?』で大爆笑しながら、人生について考えてみるのはいかがだろうか。
堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。
館ひろしの2枚目リセット作
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