絵本座談会【前編】

「読み聞かせ」は頭のいい子を育てる? 絵本をめぐる“親の憂鬱”を考える座談会

2019/06/03 17:00
安楽由紀子

「頭のいい子に育てるため」という目的の是非

東條知美さん

北尾 「賢い子に育てるためには本を読ませればいいの?」とよく質問されますが、本を「これが役に立つ」「ためになる」といやいや読んだら、親も子も両方楽しめないですよね。頭のいい子に育てるには読書が必要、そのための素地として読み聞かせをしなければ……とゴールに向けて前のめりになってる。

東條 『頭のいい子を育てるおはなし366』(主婦の友社)という本などが売れていることが象徴的ですよね。

北尾 冒頭で神保さんも言われたように、絵本は言葉を育む方法の一つに過ぎないのではないでしょうか。絵本でなくても、広告などを一緒に見て、「このリンゴ、おいしそうだね」という会話をしたっていい。絵本はそこにストーリーがあるので会話しやすいということだと思います。

神保 ある図書館で、「子どもと向き合ってたくさん遊びましょう。絵本は遊びの中の一つとして捉えて」と話したときに、若いお母さんが「安心しました」と言ってきたんです。「絵本を読むのは義務だと思って読んでいるけれど、子どもが最後まで聞いてくれなくて悩んでいた」と。そのお子さんはまだ1歳になったばかり。しかも赤ちゃん向けの本ではなく『ぐりとぐら』(福音館書店)などのロングセラーを読み聞かせしていたんです。「いくらいい本でも1歳の子にはそれは無理よ。赤ちゃんは途中で飽きるのが当たり前」と伝えました。真面目なお母さんほど「そんなに必死に読まなくてもいいよ」と声をかけてあげないといけないかもしれない。

大内 私は、読み聞かせの楽しさって、子どもの反応がどうかということより、親である自分が「この絵本、面白いなぁ」と感じることだと思っています。「教育」は専門家に任せる部分でもあると思うので、読み聞かせは「自分が楽しむもの」でいいのかなって。それに子どもは、親が楽しそうにしてるのが好きですよね。あと、「大人一人、赤ちゃん一人で家にいると間が持たないから絵本を読む」ということもあると思います。まだしゃべらない赤ちゃんに話しかけるって、特に初めての育児だと難しいので……絵本を介してだと語りかけるのも自然にできますよね。


北尾 読み聞かせにプレッシャーを感じている人は、「失敗しちゃいけない」と思っているんでしょうね。

神保和子さん

東條 特に1人目だと責任重大と思ってしまう気持ちは、私も身に覚えがあります。ここで離乳食をやめて大丈夫なのか、将来、健康に問題が出るのではないか……と。今は「こうでなければ危ない」という情報があふれているので、余計に視野が狭くなるのかもしれないですね。「こうでなければならない」が多すぎると子育ては苦しい。加えて自分がいいと思ったことを他人に躊躇なく言う先輩ママが多い。ありがたいこともあるけど、うまく流す能力を身につけ、「こうでなければならない」ではなく「どっちでもいい」という視点を持っておいた方がラク。母乳神話と読み聞かせは似ているかもしれないですね。

――「読み聞かせをしないと、感情に乏しくなる」などと追い詰められている人もいるような気がします。

北尾 読み聞かせをしていたとしても、お母さんが無表情で棒読みのように読んだり、子どもが質問しても無視して読んでいたらいい影響はないと思いますけどね。

大内 親が「私は子どもを変えられる」「私の思うようにできる」と思ってしまっている部分もあるのかもしれません。読み聞かせというタスクをこなせばいい子に育つ、みたいな。でも、子どもって本当に、どうにもできない。親の思うようにはならないものですよね(笑)。


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