サイゾーウーマンカルチャー社会子どもへの暴力を禁止していない日本の現状 カルチャー 【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第3回 悲しいことに結愛ちゃんが書いた「ゆるして」は珍しくない……子どもへの暴力を認めている日本の現状 2018/08/18 19:00 インタビュー虐待社会 「子を叩かないと決めましょう」と話す高祖さん 東京・目黒区で5歳の船戸結愛ちゃんが父親からの日常的に暴力を振るわれ、十分な食事を与えられず衰弱死した事件。凄惨な虐待と結愛ちゃんがノートに書いた「おねがい ゆるして」という文章にやりきれない思いを抱えた人は多いだろう。 サイゾーウーマンではこの事件をきっかけに改めて虐待を考える特集を組んでいる。第1回はデータから読む虐待の現実、第2回は現行の虐待対応体制の問題点に迫ったが、第3回は、NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」理事の高祖常子さんに、子どもへの暴力を容認するかのような社会風潮について話を聞いた。 【第1回】「加害者の半数は実母」「幼児より新生児の被害が圧倒的に多い」――児童虐待の事実をどのぐらい知っていますか? 【第2回】児童相談所の権限強化や警察との全件共有は、本当に救える命を増やすのだろうか? ――結愛ちゃん事件の報道はどうご覧になりましたか? 高祖常子さん(以下、高祖) 「児童虐待防止全国ネットワーク」では虐待で命を落とした子を把握するために、虐待報道を細かくチェックしている人がいます。その人と事件が明るみになる前に、「最近は虐待死の報道が少なくなっている」と話していたのです。虐待死自体が減っているわけではないけど、報道で取り上げられる件数が減っている。そもそも虐待で命を落とす子は3歳以下の子が多くて、しかも加害者が実母だというケースが半数(※1)。実母が子どもの命を奪うケースはあまり大きく取り上げられないのです。 ――結愛ちゃん事件も、主たる加害者は母親の再婚相手である父親で、結愛ちゃんが両親に向けて「ゆるして」と書いたノートもありました。 高祖 あのノートが残されていたので、事件がセンセーショナルに扱われたと感じます。私は、かつて虐待を受けていた方たちとも交流があるのですが、「虐待されていた人の多くは、ああいった文章を書かされていた」と言うんです。親は「お前が悪いから殴られるんだ」と主張し、子に「私が悪いんです」という反省文を書かせる。支配的な親子関係では多いようです。 ――死亡・暴行事件に限らず、「しつけ」と「虐待」の線引きをあいまいにしている人は少なくありません。 高祖 しつけと虐待は違います。日本人は、「他人に迷惑をかけないような子に育てなきゃ、そのためには厳しくしなきゃ」と思いがちなのですが、子どもが心や体に傷を負うならばそれはダメ。国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が今年2月に発表した、「国内2万人のしつけにおける体罰等に関する意識・実態調査」では、子どもの有無にかかわらず、「積極的に」「必要に応じて」「ほかに手段がないとき」を含めしつけのための体罰を容認している人が6割近くいました。 厚生労働省が虐待対応支援のため作った「虐待対応の手引き」というものがあります。そこで「身体虐待」は殴る蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶることなどを指していたのですが、平成25年の改正で「叩く」行為が加わりました。世間的にも「子どもを殴ってはいけない」と認識しているものの、「言うこと聞かなかったらおしりを叩いてもいい」という人は多い。 ――親子関係を“親による支配”と実感しながら育った世代には多いかもしれません。 高祖 自分の親から「厳しく育てなさい。言うこと聞かないんだったら、たまには叩かないとダメよ」と言われる人もいます。男性の方が親から手を上げられて育った確率が高く、「夫から『時には厳しくしないと』と言われて、私は叩きたくないけどたまには叩くことも必要かなと思う」と言うママもいます。でも「叩かない」と決めましょう。今世界で53カ国が子どもへの体罰・暴力を禁止しています。日本では子どもへの体罰・暴力の禁止を明文化しているのが学校教育法だけなのです。 次のページ 「暴力や支配による子育て」からの脱却が虐待予防に 12次のページ Amazon ゆがんだ正義感で他人を支配しようとする人 (講談社+α新書) 関連記事 男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する日本人の民度を検証する「女性自身」「男性も楽になる」ジェンダー論はおかしい――女性を“わかってるふう”の男性の問題点躁うつ病の前夫と離婚後に出会った7歳下の再婚相手は、暴言・暴力ばかりの“モラハラ男”子どもが「パパ、もうやめて」――復縁するも、夫の暴力は止まらず【別れた夫にわが子を会わせる?】性犯罪者は生きるために再犯するーー厳罰化で被害者は減るのか?