[官能小説レビュー]

恋愛やセックスにおける男女の”平等”に迫った、「みんな半分ずつ」

2012/02/19 21:00
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『とける、とろける』(唯川恵、新
潮社)

■今回の官能小説
『みんな半分ずつ』唯川恵(『とける、とろける』/新潮社より)

 女は強くならないと生き辛い世の中になって来た。仕事も経済面もできる限り自立をしなければならないし、自立を目指して社会的地位を得ている女のほうが、相応のイイ男を引き寄せやすい。ちょっと前に流行した”エビちゃんOL”のような、経済的にも精神的にもオンブにダッコを求めるお嫁さん女は、草食系がはびこる今の男子にとっては手に余る存在なのだ。

 社会的には対等な女性像が求められている。けれどそこにセックスが絡むと、そうはいかないのがこのご時世。

 今回ご紹介する、唯川恵の「みんな半分ずつ」の主人公・弓枝は、地位も名声も得ている、同性の憧れ像を描いたような女性だ。事実婚の夫・康人とふたりで若くしてインテリアの事務所を構え、37歳になった今は、順調に事務所を守り立てていた。

 そんな中、康人から唐突に別れを切り出された。原因は、事務所のアルバイト・美希との浮気。康人の不審な行動を見て見ぬ振りをしながら日々をやり過ごしていた弓枝。気付いたころには離婚を切り出され、共同経営をしていた事務所は康人のいたデスクの向こう側がごっそり半分がらんどうになっていた。

 それから1週間後、ホテルのラウンジでふたりは再会する。実質的な”これから”を淡々と語る康人に、弓枝は声を荒げる。いつだって対等に向き合い、ふたりでがんばってきたじゃない、と。けれど康人はこう一蹴する。「対等なんて、男を見下した言葉だ」。


 弓枝にとって「半分ずつ」は、最上級の愛情表現だった。食事も金銭面でも「半分ずつ」のルールを貫いてきたふたりが、唯一そうならなかったのは、6年前の弓枝の堕胎のときだ。「産めばいい。籍も入れよう」と康人から提案されたが、考えた末に仕事を取った弓枝。このときの判断が弓枝に罰を与えているような気がしてならない……なぜ、自分だけ。

 それから1週間後、康人の浮気相手である美希から呼び出される。彼のパートナーに相応しいとは思えない、と、真正面から向かい合う弓枝。しかし美希は笑いながら言う。康人と対等になるつもりはない、彼に養ってもらうのが私の理想だ、と。

 価値観の異なる女ふたりは、ベッドでの愛され方も異なる。自分が上になったら彼が上になる。愛撫をされたら、してあげる。愛しているから快感もオーガズムも対等に、半分ずつ分け合っていた弓枝。けれど美希の愛され方は違う。康人から一方的に責められ、貫かれ、最後まで受け身のセックスをすると言うのだ。

 荷物の整理をするためにマンションに戻った康人。ふたりで揃えたものを平等に配分する。ワイングラス、シャンパングラス、オーディオ、テレビ……弓枝は、最後まで”半分こ”を貫こうとする。

 美希が弓枝に対する捨て台詞が突き刺さる。


「対等を意気がる女って、結局、女のおいしいところも味わえないまま終わってゆくんじゃないかしら」

 若さにのさばるオンナ特有の無根拠な自信だとは分かっていても、三十路を過ぎた女は笑って一蹴できないだろう。今の時代、30過ぎたオンナは、オトコと対等を掲げないと世間から溢れてしまうから。

 男と女は、恋愛においてはしょせん対等にはなれない。平等思考な女の足元をすくうのは、不条理な男の願望だ。

『とける、とろける』

「平等を受け入られる男」のフリって、大変みたいよ

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最終更新:2012/02/19 21:00