Koki,『女神降臨』、『コナン』公開で興収崖っぷちも……ルッキズムを避けた「オタクが共感」できる良作だった!
【サイゾーオンラインより】
主演のKoki,がプロモーションに奔走した映画『女神降臨 Before 高校デビュー編』は、3月20日より全国311館という大規模での劇場公開がスタートしたが、興行収入ランキングで初登場9位、2週目以降は圏外となり、複数のメディアから「大コケ」「崖っぷち」などと報道されてしまった。
目次
・『女神降臨』中高生向け恋愛映画の「渋滞」も苦戦の理由?
・『女神降臨』ちゃんと「内面」を重視した成長物語だった
・オタク同士の会話やデートをする流れが微笑ましい
・Koki,は冴えないオタク女子を完璧に演じきっていた
・『女神降臨』野暮なツッコミをしたくなるところも
・現役大学生が考案した「映画オリジナル要素」が秀逸
『女神降臨』中高生向け恋愛映画の「渋滞」も苦戦の理由?
苦戦の理由は、直近で『顔だけじゃ好きになりません』『お嬢と番犬くん』『山田くんとLv999の恋をする』といった、中高生向けの恋愛映画が立て続けに公開され「渋滞」していた影響もあるのだろう。しかも本作は「前後編」であり、完全に楽しむには2本分の鑑賞料金が必要となるため、お小遣いが限られている中高生にとってはよりハードルが高かったのかもしれない。
後編の『女神降臨 After プロポーズ編』は5月1日より公開となるが、4月18日からは劇場のほとんどのスクリーンを占める『名探偵コナン 隻眼の残像』が上映スタートし、これ以上の前編『Before』の伸びはほぼ見込めない。原作の韓国発のWEBマンガは世界累計閲覧数が64億回を超える人気作だけに、この成績は関係者の期待を裏切る結果といえるだろう。
『女神降臨』ちゃんと「内面」を重視した成長物語だった
一方で、作品評価は「映画.com」で3.3点、「Filmarks」では3.6点などと悪くはないし、Xでは大人からの「ちゃんとしている」といった称賛の声が相次いでいる。
筆者も劇場で実際に観てみると、好評に納得できた。しかも、華やかな見た目とはいい意味で真逆の、「オタク」「陰キャ」を自覚する人こそが共感もできる内容であることも意外だった。
本作のあらすじは、地味で冴えない容姿から学校でいじめられ、不登校になってしまった主人公の女子高生・麗奈(Koki,)が、動画でメイクのテクニックを学び努力を重ねた結果、転校先で「女神」と称されるほどの美人として完璧な人生をスタートをきるというもの。
この物語の発端から、ルッキズムを助長してしまわないかと心配にもなるし、まさにそれを理由に本作を酷評する声も見かけたが、筆者はそうは思わない。「美人というだけでもてはやされる」のは冒頭だけで、それ以降はその価値観をむしろ積極的に避けた、メイクという題材に真摯に向き合った、1人の女の子の「内面」こそを重視した成長物語になっていたからだ。
オタク同士の会話やデートをする流れが微笑ましい
※以下、『女神降臨 Before 高校デビュー編』の一部展開に触れています
例えば、麗奈にとってメイクは、美人へと変貌させてくれた便利な魔法というだけではない。自分が学んだテクニックを友達に教えてあげたり、バイト先の先輩に勇気を持たせたり、さらにはメイクの学校に進学するという人生の目標になったりもする。
恋愛面においてもメイクはあくまで「きっかけ」だ。初めこそ麗奈は同級生・俊(渡邊圭祐)にすっぴんの秘密を見抜かれてしまい主従関係になるのだが、その後に2人が仲良くなっていくのは、実は共に「ホラーのオタクだったから」。ホラーレンタルショップで伊藤潤二のマンガの知識の違いを語り合ったり、ゾンビが出演する娯楽施設でデートするといった流れは微笑ましいし、それでこそ2人は惹かれあったという説得力がある。
Koki,は冴えないオタク女子を完璧に演じきっていた
その後は、身勝手だと思ったアイツにも違った面が見えてきて、しかも情熱的な御曹司にも迫られて……といった胸キュン映画の王道の展開を踏んで行き、伏線回収や構成も丁寧でとても楽しく見られる。その流れの中で常に思い知らされるのは、本当に「内面は冴えないオタク女子」に見えるKoki,の表現力だ。
Koki,自身が美人そのものなので、下手にこのキャラクターを演じてしまうとイヤミに見えてしまいそうなところだが、実際はちょっとした表情やしぐさから「自信のなさ」が垣間見え、これまでいじめられ、自分を押し殺していたのであろう、彼女の辛い心情も想像できる。
それでいて、ホラーやメイクという自分の好きなことが本当に好きという、オタク気質だからこその愛らしさも、その笑顔から伝わってくる。Koki,が「本当に幸せになってほしい」と願えるキャラクターをこれ以上なく体現していたことが、本作の最大の美点だ。もちろん渡邊圭祐と綱啓永も、クセ強めだが内面が複雑なイケメンを好演しており、ホラーレンタルショップの店長役の佐藤二朗が「いるだけで安心する」存在感なのもうれしかった。
『女神降臨』野暮なツッコミをしたくなるところも
ここまで本作を称賛したが、正直に言って気になるツッコミどころはそれなりにある。例えば、Koki,のすっぴんの時の冴えない容姿を「ニキビがたくさんある顔」で誇張して見せているのだが、さすがに極端すぎて「メイクで隠すよりも先にニキビのケアをしてよ」と思ってしまった。
さらに、終盤の文化祭のシーンで、麗奈はとあるワナにかけられ大ピンチになるのだが、その流れに無理がありすぎて「そうはならんやろ」と思ってしまった。そもそもの設定からやや現実離れしているとはいえ、実写映画というリアルな表現媒体では、もう少しだけでも説得力を持たせる工夫は必要だっただろう。
加えて、終盤のトーンがややウェットかつ、展開が地味になってしまった印象もあるので、もう少し派手なサービスがあったら……ともなるのだが、それはさすがに過剰な要求かもしれない。
現役大学生が考案した「映画オリジナル要素」が秀逸
一方、こうした「前後編」の映画作品は、まだ主たる事態が何も解決しない、良くも悪くもモヤモヤを抱えたまま後編を待たなければいけないケースもままあるのだが、本作ではひとつの物語が決着するところまで進み、前編だけで十分満足できる構成になっていることも感心した。それでいて「気になることも残っている」からこそ、後編への期待も膨らむというのは、とても良いバランスだったと思う。
なお、本作の脚本を手がけた鈴木すみれ氏は、「フジテレビヤングシナリオ大賞」を史上最年少の14歳で受賞した現役大学生だ。起承転結のある映画としての構成が実にうまく、さらにホラーレンタルショップや、終盤で明かされる俊が抱えた事情は、原作にはない映画オリジナル要素だったという。それこそがまさに物語とキャラクターに奥行きを与えており、間違いなく彼女が本作の立役者といえる。
そんなわけで、残念ながら興行的には大苦戦となってしまった『女神降臨 Before 高校デビュー編』ではあるが、内容は王道の胸キュン恋愛映画を主体にしつつ、ルッキズムの助長を徹底的に避け、1人の女の子の成長物語としてしっかり作り上げた良作だった。何よりKoki,にとっての代表作と断言できるので、彼女のファンはぜひ優先的に見に行って、後編の『After プロポーズ編』にも期待してはいかがだろうか。
(文=ヒナタカ)
※Koki,は「o」の上に「‐」が正式表記