老いゆく親と、どう向き合う?

「法律通り分けておけばよかった」父の遺産、母にすべて渡したのが間違いだった

2024/12/08 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真AC

 “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

目次

母に遺産すべてを渡したのが間違いだった
母の妹への態度にうんざりする
疑り深い母が、不動産の名義変更をしぶしぶ従ったわけ

母に遺産すべてを渡したのが間違いだった

親の財産をきょうだいでどう分けるのか。相続が“争続”になる例は珍しくない。前編で登場した柴田さんはそれを「お金にかえた、親の愛の奪い合い」と表現した。

 雨宮美和子さん(仮名・56)姉妹の場合は、ちょっと違う。父の財産を、母とどう分けるのかという問題に直面しているのだ。

 雨宮さんは、10年以上前に急逝した父の遺産を、すべて母に渡したことを後悔している。そのときは、母がまだ60代と若かったこともあり、母のこれからの生活を考え、雨宮さんと妹は自分たちに相続の権利があった分もすべて母に渡すことにした。

「今になって、あのとき法律通り分けておけばよかったと思います」

母の妹への態度にうんざりする

 もともとお嬢さま育ちで自己中心的だった母は、年々その性格がひどくなっていった。些細なことで雨宮さん姉妹を呼びつける。

「体の具合が悪い、あそこが痛い、ここが気になる、家が傷んでいる、電化製品の使い方がわからない、ご近所の誰かとトラブルになった……そのほとんどが大したことではありませんし、そもそも自分が起こしたトラブルだったりもします。それで私たちにさんざん愚痴ったり文句を言ったりしたあげく、『これお小遣い』と言って少しのお金をくれるんです。主人が使用人にチップを渡すように」

 特に、妹に対しては、「生活が大変なあなたには助かるでしょ」と、恵んでやっていると言わんばかりの態度なのだという。

「実際、妹には学生でまだお金のかかる子どもたちがいて、妹もパートで大変なんです。だからなおさら母はそういう態度に出るんだと思いますが、そのたびにうんざりします。元はと言えば、私たちももらう権利のあった父の遺産なのに、何でこちらが小さくならないといけないのか」

 母に父の財産をすべて渡したのが間違いだった。なまじっかお金があるせいで、母は雨宮さん姉妹に大きな顔をして、あごでこき使っているようにしか思えない。

「私は正社員としてそれなりに稼いでいるし、忙しいのでそうそう母の言いなりにはなりません。だから母も私にはまだ遠慮があるのですが、昔から母の言うことをおとなしく聞いていた妹は母に呼びつけられると、黙って従うばかり。母が生きている間は、はした金をもらって使用人のような扱いを受けるのでしょう。妹が不憫でなりません」

疑り深い母が、不動産の名義変更をしぶしぶ従ったわけ

 母は見栄っ張りで、金遣いも荒い。何にお金を使っているのかもよくわからない。親しげなセールスマンが出入りしている気配もある。せっかく父が残してくれたお金がなくなってしまうのを危惧した雨宮さんは、一計を案じた。

「税理士さんのアドバイスだと言って、母が持っている預金や不動産を私たちの名義にしたほうが今後のためにも相続税対策になるからと、少しずつ名義を替えることにしました」

 疑り深い母だが、専門家のアドバイスだと言うと、しぶしぶではあるものの雨宮さんの指示に従っているという。

「一度にはできないので少しずつですが、何もしないよりはいい。妹を守るためでもあるのですから。他人から見れば、冷酷な娘だと思いますが、何と思われてもいい。あの母には普通に接していてもこちらが使い捨てられるだけ。割り切って、母に振り回されて寿命を縮めた父への供養だと思って、粛々と進めることにしています」

 そう言いつつも、雨宮さんは母を見捨てるつもりはないという。「どんな母でも親ですから、最後まで面倒は見るつもりです」と。これも母への愛には違いない。

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2024/12/08 18:00
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