Number_iがリアルなヒップホップを体現できた理由は? 逆境に挑む「GOAT」な生きざまと音楽性
TOBE所属のNumber_iがリリースした「GOAT」。その音楽性の高さは、各方面で驚きを持って受け止められた。同曲、そしてNumber_iの音楽性について、ヒップホップ系音楽誌の元編集部員、田口るいさんが解説します。
目次
・Number_i「GOAT」、ヒップホップの世界的スタンダードを踏襲
・Number_i・平野、岸、神宮寺のフロウの特徴
・Number_i、逆境に挑む生きざまこそがヒップホップ
・「GOAT」関連のおすすめHIPHOPアーティスト3人
Number_i「GOAT」、ヒップホップの世界的スタンダードを踏襲
元King&Princeメンバーの平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太による音楽グループ「Number_i」。2023年10月の結成後、今年1月1日にリリースした1st配信シングル「GOAT」のミュージックビデオ(MV)が公開からわずか3日で1000万回再生を突破、さらにオリコンが1月10日付けで発表した「オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキング」(集計期間:1月1~7日)で初週6.6万DLをマークし、初登場1位を獲得するなど破竹の勢いで活躍している。
「GOAT」は、一言でいえば最先端のヒップホップを詰め込んだ楽曲。ここ数年でヒップホップの世界的スタンダードとなったトラップ的要素を取り入れていることはもちろん、現地のみならず海外からも注目が集まっているK-HIPHOP(韓国のヒップホップ)のエッセンスも楽曲・MVに投入している。
加えて、「GOAT」を繰り返すキャッチーで耳に残るフック(サビ)に誰でもマネしやすい振り付けを取り入れており、SNSでバズる楽曲の条件をしっかり満たしている。そんなふうにヒット要素が全方面に散りばめられている楽曲を、King&Princeメンバーとして絶大な人気を誇った3人が歌い、踊るのだから、ケタ外れのMV再生回数やDL数にも納得だ。
Number_i・平野、岸、神宮寺のフロウの特徴
そもそも平野、神宮寺、岸はKing&Prince時代にも「ichiban」でヒップホップとの親和性の高さを発揮していたが、「GOAT」でそれが大爆発。
平野が低音優男ボイスを駆使して繰り出すフロウは、バラエティで活躍していた天然キャラからは想像できないほどクールだ。
一方で岸は「これぞ岸!」ともいえる元気いっぱいでトリッキーなフロウ。期待を裏切らない男である。そして平野と岸のちょうど中間ほどのトーンで、所々出てくるやんちゃ感が特徴的なのが神宮寺。
King&Prince時代から仲が良かった3人だけあって、それぞれのフロウのバランスが取れている。
Number_i、逆境に挑む生きざまこそがヒップホップ
King&Prince時代は抜群のアイドル性、端正なルックス、圧巻のパフォーマンスで人気を博してきた3人。
ヒップホップ業界でも、アーティストが持つアイドル性やパフォーマンス能力が重視されることはあるが、どちらかというとそれらよりもアーティストのプライベートそのものやリリックなどから感じられる「リアルな生きざま」が支持される理由となる傾向がある。ヒップホップはもともとニューヨークのスラム街で生まれた音楽・カルチャーであり、差別や偏見が蔓延(まんえん)した社会への意思表示のツールという役割があるからだ。
ゆえに、運に左右されるようなシンデレラストーリー的成功を収めたタイプよりも、泥水をすすってでも生きるようなハングリー精神で這い上がってきたタイプがリスナーの共感や支持を受けやすい。
実際のところ、Number_iはかつてKing&Princeとして絶大な人気を誇っており、そのまま活動を続けていたとしても安泰だっただろう。しかし3人は、あえてまったく別ジャンルのヒップホップを体現するという決断を下した。
国民的アイドルだった彼らが、まだまだアンダーグラウンドな業界であるヒップホップに飛び込んでいったのは、並々ならぬ決意があってのことだろう。その逆境に挑む生きざまこそが、リアルなヒップホップであり、「GOAT」(ヒップホップのスラングで「史上最高」の意)だ。