Snow Man・目黒蓮、KinKi Kids・堂本剛や長瀬智也――SMAP以降のアイドル俳優ヒストリー
ジャニー喜多川氏の性加害問題により、社名を「SMILE-UP.」へと変更した旧ジャニーズ事務所。旧ジャニーズタレントたちのテレビ番組出演見送りといったウワサも飛び交っているが、彼らは多くのファンを抱え、アイドル・俳優・タレントとして視聴者を魅了してきた歴史がある。
そこで今回は、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏に、旧ジャニーズアイドルたちの俳優としてのヒストリーをつづってもらった。
本木雅弘や田原俊彦といった例外はいたものの、旧ジャニーズアイドルが俳優としてテレビドラマで活躍する機会が増えたのは、SMAP以降である。
90年代初頭は、これまでアイドルが活躍の拠点としていた『ザ・ベストテン』(TBS系)等の歌番組が続々と終了し「アイドル冬の時代」と呼ばれていた。そのため、その時代にキャリアをスタートしたSMAPは、歌番組以外の場所に活路を見いださなければならなくなり、歌とダンスだけでなく、お笑い、司会、俳優といったあらゆるジャンルに進出していった。
テレビでは、トレンディドラマブーム以降、盛り上がりをみせていたフジテレビの作品に次々と出演し、1996年には木村拓哉が月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)の恋愛ドラマ『ロングバケーション』で山口智子とダブル主演を務めることになる。それ以降、SMAPは月9や日曜劇場(TBS系日曜よる9時枠)の常連となり、アイドルという立場のまま、人気俳優の仲間入りを果たした。
そして、SMAP以降の旧ジャニーズアイドルの登竜門となったのが、土9(日本テレビ系土曜夜9時枠、現土10)だ。95年にKinKi Kidsの堂本剛が主演を務めたミステリードラマ『金田一少年の事件簿』(以下、『金田一』)が大ヒットしてからは、土9では、旧ジャニーズアイドルが主演を務めるドラマが続々と制作された。
月9がF1層(20〜34歳の女性)をターゲットにしたドラマ枠だったのに対し、土9は10〜20代の若い男女に向けた漫画原作のドラマを作ることで人気枠となった。そこで主演を務めたのが、KinKi Kids、TOKIO、V6、嵐といったSMAP以降の旧ジャニーズアイドルたちだ。
長瀬智也を俳優として成長させた、堤幸彦と宮藤官九郎
一方、土9で才能を開花させた監督もいる。先の『金田一』やTOKIO・松岡昌宏主演のドラマ『サイコメトラーEIJI』(97年)といった作品で、チーフディレクターを務めた映像作家・堤幸彦である。
堤の映像はカット数が多く構図が独特なものとなっており、先鋭的であると同時にとてもポップだ。堤はMV、ドキュメンタリー、演劇、コントバラエティーといったテレビドラマの外側にある映像を積極的に持ち込むことで、今までのドラマとは違う独自の映像世界を作り上げていったのだが、彼が撮る旧ジャニーズアイドルは、少年としての生々しさとアイドルならではの虚構性を兼ね備えた独自の肉体性があり、既存の俳優にはない魅力に溢れていた。
土9で独自の映像美学を生み出した堤はその後、他局でも話題作を次々と手がけるようになるのだが、旧ジャニーズドラマの歴史において最重要作といえるのが、2000年に堤が手がけた元TOKIO・長瀬智也(2020年に事務所を退所)主演のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、以下『池袋』/2000年)だろう。
長瀬が演じた主人公のマコトは、バカでエッチなことにも関心のある元不良の青年で、普通ならアイドルが演じるにはふさわしくない役だった。堤の毒のあるポップな映像によって暴力やエロがブラックな笑いに転化される『池袋』の世界観は、旧ジャニーズアイドルを応援するファンにとってはダークで陰惨だったが、逆にジャニーズアイドルがこんなドラマに出演しているのかと高く評価された。本作で長瀬は「愛嬌のあるバカ」というハマり役を掴み、日本を代表する俳優に成長していった。
また『池袋』の脚本を担当した宮藤官九郎は、本作の成功を経て、長瀬を筆頭とする旧ジャニーズアイドル主演のドラマを次々と手がけることになる。元V6・岡田准一(23年11月末に退所)と嵐・櫻井翔のダブル主演『木更津キャッツアイ』(02年)、岡田と長瀬が主演を務めた『タイガー&ドラゴン』(05年)、二宮和也主演の『流星の絆』(08年)、錦戸亮主演の『ごめんね青春!』(14年)といったTBS系の旧ジャニーズアイドル主演のドラマで本を書いた宮藤は、堤氏と並ぶ、旧ジャニーズアイドルの俳優としての地位向上に一役買ったクリエイターだ。
旧ジャニーズアイドルたちはクリエイターのイマジネーションを刺激する
宮藤の脚本に出演する旧ジャニーズアイドルは、性欲もあれば下品なギャグも言い、内側に荒々しい暴力性を抱える等身大の男性を演じる機会が多く、こんな役をアイドルが演じるのかという驚きがあった。
男性アイドル出身の俳優が色眼鏡で見られるのは、アイドルにリアルな人間の悩みを演じられるわけがないと思われていたからだが、そういった偏見を覆していったのが堤や宮藤のドラマに出演した旧ジャニーズアイドルだ。
テレビドラマの王道を突き進んだSMAPに対し、SMAP以降の旧ジャニーズアイドルは、堤や宮藤といった当時のドラマでは異端視されていた先鋭的なクリエイターの作品に出演することで俳優として磨かれていった。それこそが今も続く、旧ジャニーズアイドルたちが俳優としてブレークを果たした最大の理由だろう。
最近では生方美久脚本の恋愛ドラマ『silent』(フジテレビ系/22年)で聴覚障害者の青年という難役を演じたSnow Man・目黒蓮がそうだったが、いつの時代も、旧ジャニーズアイドルはクリエイターのイマジネーションを刺激し、彼らの期待に応えることで俳優として成長していく。
堤・宮藤の時代を経たことで、どんな難しい役でも演じてくれるという信頼が旧ジャニーズアイドルの俳優たちに生まれた。先鋭的なクリエイターとの幸福な共犯関係があったからこそ、彼らの演技は開花し、出演するドラマは洗練されていったのだ。