プロの作詞家がキンプリ・永瀬廉「きみいろ」を考察! 「嫉妬するファンもいる」と語るワケ
作詞家、作曲家からの提供曲を「歌って踊る」ことがメインのジャニーズアイドル。しかし、グループによってはメンバーが作詞・作曲を行うなど、積極的に楽曲制作に携わっているケースもあります。
そこで今回は、King & Princeの5枚目のアルバム『ピース』(2023年8月16日発売)に収録されている、永瀬廉の作詞曲(YUUKI SANO氏との共作)「きみいろ」を、プロの作詞家・昆真由美さんに考察・評価してもらいました。
永瀬廉作詞のラブソング「きみいろ」のポイントは“女性の人物像がリアル”
――永瀬さんは今回のソロ曲が初めての作詞ということですが、「きみいろ」を聞いて全体的にどのような印象を持たれましたか。
昆真由美さん(以下、昆) まず前提として、「きみいろ」の歌詞は永瀬さんと、この曲の作曲も手掛けているYUUKI SANO氏の共作です。共作の場合、作詞家がベースの歌詞を書いてアーティストさんが手を加えたり、アーティストさんが書いた歌詞やアイデアをもとに作詞家が手を加えるなどいろいろなパターンがあります。あくまで想像ですが、『ピース』に関する永瀬さんのインタビューを読むと、エピソードや世界観の部分は永瀬さん自身のアイデアが生かされているのではないかなと思いました。
全体の印象としては、シンガーソングライターさんの歌詞に多くあるような、情景が目に浮かぶ立体的な歌詞が特徴的だと感じました。なお、私はこうした物語を読んでいるような感覚になる曲を“ストーリーソング”と呼んでいます。
中でも、相手の女性がどのような人物なのかがリアルにわかる点がポイントですね。例えば、「僕のソファの定位置 座ってる かまってほしい君」「カゴいっぱいにカップ麵 詰め込んで 満足気な君」「君に『可愛い』と言ったら 『知ってるよ』って言う」など。
ちなみに、ロックバンド・back numberさんの歌詞っぽいなぁと思っていたら、永瀬さんは同バンドが好きだというネット記事を見つけて、「やっぱりな」と納得しました(笑)。
――確かに、back numberも情景が想像できる歌詞が多いですよね。「きみいろ」に登場する女性は、隙のないパーフェクトな人物像ではなく、少しだらしない部分があったり、天真爛漫な性格なのかなと感じました。
昆 「朝が弱いとこも 寝返り多いとこも そりゃ やっぱり直してはほしいけど」などもそうですよね。ラブソングの歌詞は、“不幸ひとさじ”といって、相手のマイナスな部分やダメなところも入れると、リアルさがあって面白味が出たり、聞く人の共感を呼んだりするんです。実際、付き合っているといい部分だけでなく、いろいろな面が見えるじゃないですか。
「きみいろ」は下の図の「交際期」のなかでも盛り上がっている時期の歌ですよね。恋愛が盛り上がっている時期のエピソードを書いているのに、“好き”という要素だけでなく、ちゃんと彼女のダメさなんかも入っていて、そのさじ加減がすごく上手に書けていると思います。
歌詞としては魅力的な「きみいろ」だが、永瀬廉のファンからしたら……
――相手の女性がリアルという点以外にも、「きみいろ」の歌詞の魅力はありますか。
昆 歌詞に、永瀬さんらしさがにじみ出ているところがいいなと感じました。例えば、サビ前の「かまってほしい君も愛しさで溢れてる」の後に、「大好きだ」とかではなく、「困ったなぁ」という言葉が続きます。本人にお会いしたことはありませんが、彼女のことが好きで困ってしまっている部分なんかは、 “素直でいい人” という永瀬さんの性格が出ているんじゃないかなと思いました。テクニックとかではなくて、自然と作詞した人の持ち味、らしさみたいなものが反映される歌詞は、いい歌詞だなあと思います。
――では逆に、「もっとこうしたら良くなる」と感じたところはありますか。
昆 作詞としては申し分ありません。ただ、永瀬さんはアイドルという職業柄、リアルな歌詞から彼の恋愛のあれこれを想像し、嫉妬してしまうファンもいるのではないでしょうか。作詞家がアイドルに楽曲提供する際は、ファンが自分に言われているように思える歌詞を意識したりするんですよ。なので、いつもと方向性の違う歌詞にびっくりしてしまうファンもいるかもしれませんね。
――そうなんですね。実際にSNS上では、歌詞のリアルさを嘆いているファンも見受けられました……。
昆 ただ、アイドルではなくアーティスト的な一面が見られるという点で貴重な一曲だと思います。「きみいろ」は、前回解説したなにわ男子さんの「ちゅきちゅきブリザード」(西畑大吾作詞)のように、韻を踏んでいたり言葉遊びがあったりして、リスナーも一緒に楽しんで聞くという曲ではなく、永瀬さんの立場になって、彼の心の中を覗き見している感覚になれる曲ですよね。
ストーリーソングが必ずしも実際の体験だというわけではないのですが、永瀬さんがどのような目線で女の子を見ているのかといった恋愛観は表れているのではないでしょうか。ファンが嫉妬してしまう、というのは、それだけ想像力を掻き立てられる歌詞ということ。歌詞としては大成功かもしれません。
永瀬さんにはぜひ、聞く人が自分を重ねられるアイドルっぽい歌詞も書いてみてほしいですね。あとは、桜や雪など季節をテーマにした季節ソングも、彼のイメージにとても合うと思います!
昆 真由美(こん・まゆみ)
一般企業に勤める傍ら、作詞家、作詞講師として活動中。J-POPを中心に、アイドル、声優、アニメ・ゲーム、K-POPまでと幅広いジャンルの歌詞を手がけている。著者として『作詞入門 〜実例で学ぶポイントとコツ』(スタイルノート)がある。