「なんで高校野球の応援しなきゃいけないの?」「何様だよ」チアと吹奏楽部が抱く、甲子園への本音
――ブラバンやチアは野球の応援に行って当たり前とのことですが、野球部が大会の応援に来ることはあるんですか?
B美 チアの大会に、野球部が来たことはなかったですね。野球部が今、どのくらい勝ち進んでいるのかはみんな知ってたけど、チアの大会についてはほとんど知られていなかったかも。
A子 ブラバンの場合、定期演奏会だけは来てくれましたが、野球部が吹奏楽コンクールを見に来たという話は聞いたことがないですね。「お前らも来い」と言いたいわけではないですが、「野球部を応援するのは当然」だと本人たちも思っていることを、如実に表しているような気がしてしまいます。
B美 高校の運動部は硬式野球部だけじゃないのに、なぜか「高校野球」だけは応援に行こうという雰囲気になっていますよね。特に甲子園出場校が決まる夏の地方大会は、そこまで強い学校じゃなくても、一応応援には行くというか。
A子 ほとんど“学校行事”みたいな扱いですよね。私の学校は部活動に力を入れるのもあってか、野球部のレギュラーの子が授業中に寝ていても、先生が「こいつ頑張っているし、まあしょうがないか」みたいな感じで、明らかに特別視していました。
B美 友達の高校では、野球部だけ掃除が免除されていたそうです。私の高校はむしろ、運動部はやたら共用スペースの掃除を担当させられていたし、世の中には素手でトイレ掃除をやっている強豪の野球部もあるというので、一概には言えませんが。
――話を聞いていると、「高校野球」はずいぶんと甘やかされているというか、何かにつけ特別扱いされている印象です。
B美 今振り返ると、そういう面はありましたね。私の地元の新聞では、夏の地方大会シーズンになると、強豪校のみならず、地方大会に参加する野球部の一覧表が掲載されるんですよ。キャプテンの顔写真や抱負、ベンチ入りした選手の名前や出身中学、身長まで載っていました。地元密着型の地方紙とはいえ、アマチュアスポーツである部活動で、予選の段階からそこまで取り上げられるのは高校野球くらいじゃないですかね。
A子 学校内だけでなく、メディアも高校野球だけは特別枠として取り扱いますよね。なんでだろう、不思議。
B美 その甲斐あってか、確かに注目度は高くて、自分の地元ではどの高校が甲子園に行くのか、自分の母校がどこまで勝ち進んだのか、熱心に追っている人がたくさんいましたね。じゃあ、そういう人が普段から野球好きかといえば必ずしもそうではなくて、「高校野球」「甲子園」というコンテンツを消費しているんだろうなと。
A子 「高校野球」がいかに消費されているかは、高校野球と無関係の立場になって、外から俯瞰して見るとよくわかりますよね。『熱闘甲子園』(テレビ朝日系)なんかで負けたチームの選手たちが泣いている姿がやたら映されるのは、「感動ポルノだなあ」と思うし。
高校野球は、頑張る若者を消費する「感動ポルノ」?
B美 試合前の中継で、選手たちが円陣を組んでいる場面が映されて、キャスターが「さっきマネジャーの女の子に聞いたんですけど、今年のチームは何回も円陣を組んでいるそうです。バラバラになりそうな心を一つにするために……」と、心揺さぶるような説明をしていたのを見たことがあります(笑)。高校サッカーの中継でも、敗退したチームの選手たちが号泣して、そんな彼らを監督が?咤激励する場面を見ましたけど、“感動的なシーン”を見せまくって、酔いやすいようにプログラムされているんですかね。
A子 むしろ、試合そのものよりも“感動的なシーン”がメインになっていますよね。男泣きする選手や監督、献身的な女子マネジャー、円陣を組む様子、スタンドで応援するチアリーダーばかりを映して、わかりやすく美しい物語に仕立て上げる。でも、高校球児たちはいいプレーをしたり、試合に勝つために練習を頑張っているわけで、泣いてる場面なんか見てほしくないんじゃないかな。自分だったら、めちゃくちゃかっこいいプレーをしたところだけ映してくれよ、と思いますけど。
――甲子園のテレビ中継では、「炎天下で健気に応援する高校生」として、吹奏楽部やチアリーダーも「感動ポルノ」に巻き込まれているように思います。当事者たちも、自分たちが注目され、消費されている意識はあったのでしょうか?
B美 注目されているという意識はありましたね。チアはユニフォームがどうしても目立つため、野球の応援に限らず、そこにいるだけで良くも悪くも注目されてしまうことは、わかっていました。ただそれはどちらかというと「エロ目線で見られてしまう」「性的消費される」という意味合いで、「感動ポルノ」の対象にもなっていたことは、競技を離れてから気づきました。
A子 私も当時は演奏することに必死で、「注目を浴びている」「消費されている」という意識はなかったです。でも、卒業後に「ここのブラバンの応援はすごい!」と、わざわざYouTubeに動画が上がっているのを知って、「こんなふうに見られていたんだ」と驚いた感じです。
B美 メディアでは、さも「その場にいる全員が勝利を願い、心を込めて応援している」かのように映されますよね。実際は応援している側も、いろいろなことを思いながらやっているわけですが。
A子 さっき話していたように、「暑くてしんどい」とか「このへんで負けないかな」って思っていたりもするのに、外野から「みんなが一体になって応援してる」「みんなが野球を楽しんでいる」という理想を押しつけられているというか。だから私は、いま高校野球の応援席を見ると、「この子たち、暑い中で長時間応援して、終わってから練習するのかな?」と思ってつらくなります(苦笑)。
B美 炎天下での応援は熱中症の危険もあるので、「ここまでやらなくちゃいけないの?」と疑問に感じたりもします。あと、チアの場合、応援のパフォーマンスよりもユニフォーム姿を消費されている側面もあり、写真や動画がネットで出回ったりもしているので、学校側はどう考えているのか、すごく気になりますね。