コラム
朝ドラ『らんまん』解説

『らんまん』神木隆之介演じる「槙野万太郎」の史実がクズすぎ! 女たちとの奇妙な関係とは

2023/08/12 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

 寿衛と、かつて牧野の妻だった女・猶との関係も奇妙でした。寿衛は、その後も猶からの送金を受け取る窓口であっただけでなく、猶とは個人的なやりとりもしたり、猶の親戚筋にあたり、都会生活に憧れる男の子を家に置かされ、彼の面倒をみさせられたり……。

 しかし、こうした家庭上の問題に牧野は無関心でした。

 この頃の牧野といえば、先述のとおり、東大の植物学研究室で自分の理想とする研究誌を出そうという活動に没頭し、実家には多額の送金をせびるだけの日々でしたから、明治21年(1888年)、早くも岸屋は財政破綻してしまいました。

 そして、牧野は猶から懇願され、土佐に1年ほど、赴くことになります。当主である牧野のハンコがなければ、財産整理もおぼつかなかったからですが、そうした名目で、彼は妊娠中の寿衛と病気がちな長女を東京に置き去りにして、全くかえりみなかったのです。

 金欠と体調不良に苦しめられている寿衛からの手紙は次々と届いていたのですが、長女が死ぬまでなんと一通の返事すら書かず、ただ、おのれの欲望に突き動かされるまま、仰天の行動を連発していたのでした。

 しかも彼が没頭していたのは植物学ですらなく、音楽でした。妻子の窮乏をよそに、自身は土佐随一の高級旅館に宿泊し、なぜかクラシック音楽を故郷に根付かせようと奮闘していたのです。

――次回に続きます。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2023/08/12 17:00
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