『ザ・ノンフィクション』アナウンサー就活を辞めて俥夫を継続、モラトリアム延長戦に家族は?
5月14日放送の『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)、テーマは「人力車に魅せられて 3 ~浅草 女たちの迷い道~ 後編」。
『ザ・ノンフィクション』あらすじ
東京・浅草の風景に彩りを添える人力車。10社以上がしのぎを削る中、赤いはんてんがトレードマークの「東京力車」には53人の俥夫(しゃふ、人力車の運転手)がおり、そのうち15人が女性だ。
研修生の指導役を務めているのが青山学院大学4年生の俥夫・ミイ。東京力車の俥夫になるには社内の卒検に合格する必要があるが、難易度が高く、研修期間中で6割以上が辞めてしまうという。ミイ自身も卒検に苦労し、10カ月かけて6回目でようやく合格できた。
ミイは成績もスポーツも優秀な子ども時代を送り、水泳は中学時代ジュニアオリンピックを目指すほど有望な選手だったが、高校から伸び悩み、挫折を味わう。その後の東京力車での努力と成功がミイの心の支えとなっているようだ。大学では大学公認新聞「アオスポ」の記者としても活動しており、アナウンサーを志願していたものの、NHKの採用面接では人力車以外のエピソードを語れないことを面接官から指摘され、就活を辞めて東京力車に残る決断をする。
ミイは進路を家族に報告するため愛知に帰省し、「仕事を選ぶときってさ、お金とか安定とか場所とかいろいろあるけどさ、自分はそこにいる人たちで……そこに一緒に働きたいと思える人たちとやっていきたいと思って」と話すも、一方で、やりたいことがあるのか父親に聞かれたとき「やりたいことを見つけていきたいと思っている」と話す。ミイの母・文恵は番組スタッフに「大学の4年間は何だったんだろと思って」「今のその気持ちって、(ミイの)本当のものなのかなと不安です」と吐露し、家族会議は重たい雰囲気のまま終わる。
状況を知った東京力車社長の西尾は、ミイの働きぶりを評価し、正社員にならないかと誘う。ミイが違う道に進みたくなったら辞めて構わないという厚遇だったものの、ミイは「中途半端な気持ちでいたくないです」と正社員の申し出を辞退し、アルバイトのままでいたいと伝える。西尾は今一つはっきりしないミイの言い分に首をかしげるものの、若い世代は正社員、アルバイトなどのくくりにこだわりがないのかもしれないと話していた。
ミイは番組スタッフに、「私の夢は……『東京力車の人になる』『そこの社員になる』ではなかった」と心情を明かす。番組ナレーションは「(ミイは)不器用、なのかもしれません、ほかの夢を探しながら社員になるなんて無責任だ、それが彼女の答えでした」と伝えており、ミイの留学生の友人は、ミイから起業すると聞いたと話していた。
その後、研修生・リホの教育を行いつつ大学を卒業したミイ。卒業式には文恵も訪れており、その後、彼女は番組スタッフに対して「私は娘に心からおめでとうと、言えませんでした。帰り道に、そんな自分が情けなくなりました」と連絡していた。
『ザ・ノンフィクション』フラフラとしたミイの揺るがないもの
英語を勉強し、留学したいと父親に話していた大学進学時のミイ。その後、スポーツ新聞の制作に携わったこともありアナウンサーを志願するも、一緒に働く人々に惹かれたからと、東京力車に残ることを両親に報告。しかし、状況を知った東京力車の西尾が正社員にならないか持ちかけたところ、そのオファーを断り、最終的に起業の夢を友人に語っていたようだ。なお、 起業について番組の取材で聞かれたミイは「ノープラン」 と回答している。
こうして振り返ると、ミイの進路はかなりフラフラしているが、逆に言えば「自分はこれでいくという何かを、まだはっきり決めたくない、決めきれない」という思いは揺るぎないのだろう。もし、家族会議の際にアナウンサー就活を辞めるための引き合いとして東京力車を出さず、「まだ進路を決めきれないから、もうしばらく今のバイト先にお世話になりながら進路を探す」と言っていたら、もっとシンプルだったように思う。
『ザ・ノンフィクション』モラトリアム延長戦が実現できる理由
ある求人サイトに掲載された東京力車の勤務条件を見ると、「時給1800~3100円」「慣れてくると、22日勤務で平均月収60万円」と景気のよい文言が並ぶ(2023年5月時点)。
これならほどほどの日数で働いても、たいていの大学新卒の初任給よりずっと稼げる。「バイトである程度稼ぎながら自分のやりたいことを探す」がしやすい環境とも言えるだろう。一方で、なまじ稼げてしまうだけに「お尻に火がつきにくい」状態が続くことになり、実際にミイは「新卒就職」という日本の就職のメインストリームからすでに外れてしまっている。
東京力車は『ザ・ノンフィクション』の恒例シリーズとなっているが、次回の東京力車回までに、ミイは進路を決められているのだろうか。
次回は「私は何者なのか… ~すべての記憶を失った男」。ある冬の日、横浜駅で目覚めた男は、自分の年齢から名前に至るまですべてを忘れていた。鏡に映った自分の姿すら見覚えのない彼は横浜市の公的機関に保護され、「西六男」という仮の名前が付けられる。西の自分探しの旅を見つめる。