コロチキ・ナダルは、“時代”に守られている――先輩への失礼な発言が笑いになるワケ
私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「余裕のC4で」コロコロチキチキペッパーズ・ナダル
『あちこちオードリー』(4月19日、テレビ東京系)
多くの人は、嫉妬とは「自分より優れた人に向けられる感情」 だと思っているのではないだろうか。しかし、心理学では、嫉妬というのは「自分より劣っていると思っている人に、ラッキーが起きた時にもたらされる感情」としている。ということは、人を下に見る癖がある人ほど、嫉妬の感情に苦しむことになるといえるだろう。
人を下に見ないほうがいいに越したことはないが、言うは易く行うは難し。社会人になれば、上司や先輩、部下や後輩という上下のある人間関係に組み込まれることになるし、取引先も丁重に扱うべきところもあれば、それほど気を使わなくていいところもある。自分より上か下かを意識して行動しなければ、「失礼なヤツ」ないしは「要領が悪いヤツ」 とみなされてしまうこともあるので、上下関係をはかることは、社会人として必要な能力の一つだといえる。
しかし、一般的にいえば、やはり人を下に見ることは「恥ずかしいこと」なので、誰もが自分はそんな感情はみじんも持ち合わせていないかのように振る舞うはずだ。だからこそ、「人を下に見ている」ことを隠さない、コロコロチキチキペッパーズ・ナダルのような芸人に遭遇すると、思わず笑ってしまうのではないだろうか。
芸能界は、 上下関係の厳しい世界といわれるが、ナダルは先輩にも悪意なく、さらっと上から目線で失礼なことを言ってしまう。それゆえに「クズ芸人」と呼ばれている。
4月19日放送の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)によると、ナダルは劇場を中心に活動し、テレビには出ていない先輩に対して「すごいですね、満席にして。知名度ないのに」と言ったり、やはり先輩である宮川大輔、蛍原徹、ケンドーコバヤシがユニットを組んでコントをしたときは、彼らに対して「すごかったですよ、ウケかけてましたね」と暗にウケていないことを指摘してしまう。当然、先輩には怒られたそうだが、これが笑い話になるのは、 ナダルが時代に守られている部分があるからなのではないか。
ひと昔前なら、先輩を怒らせたら、本人の活動に制限がかかったかもしれない。しかし、今の時代、いくら後輩が失礼だからといって、先輩が過度の制裁を加え、その話がひとたび世に出れば、 SNSで拡散されて先輩のほうがヤバいヤツとみなされかねない。
となると、ナダルに対して本当に腹を立てている先輩は、ナダルと距離を置くことで意思表明をするだろうから、ナダルの「先輩に対して失礼」という一面は特にとがめられることがなく、彼のオリジナルな芸として成立する。「先輩の言うことは絶対」と考える若い世代も減っているだけに、悪意なく先輩に失礼なことを言ってしまうナダルを「面白い」と受け止める人も相当数いるだろう。