ジャニーズファンが避けてきた「ジャニー氏の性加害」問題――研究者に“向き合い方”を聞いた
――小埜さんはBBCの報道やカウアンさんの記者会見を、どのように受け止めていますか。
小埜 「ジャニ―氏が行っていたことはグルーミング(大人が性的な目的のため、子どもを手なずけること)ではないか」という指摘がありますよね。グルーミングにおいて、被害者が加害者に対して敬意や好意を抱くことがあることも、知識として知ってはいます。一方で、特にデビューを果たしたアイドルたちがジャニー氏への尊敬の言葉を発しているのも事実です。一連の報道で取り上げられた彼の性加害についての事実と、彼らが抱いてきたジャニー氏への想いをどう並立させて、折り合いをつけるべきか、今でも混乱している部分があるのが正直なところです。
日本では男性の性暴力被害者の声を受け止める土台がまだ、制度の面でも性規範の面でも不十分ですし、まして今回の件はジャニーズというとてつもなく影響力の大きい組織に関わる事案であり、そして加害者/被害者が同性間であることから、これまでに類似した前例もないため、どう受け止めていいか戸惑っている人もいると思います。ただ、ジャニー氏の性的指向(どの性別の人に恋愛的な魅力を感じるか)と、性暴力の問題は別々で考えるべきだと私は考えています。
――ジャニーズファンの中には「推しが被害に遭っていたと思いたくない」「この気持ちをどう処理していいかわからない」など複雑な思いから、推し活を楽しめなくなってしまった人もいるようです。
小埜 BBCの報道やカウアンさんの記者会見があるまで、多くのファンは「知らないふり」をするとか、「うわさだろう」と思い込むようにして避けてきた話題だと思います。でもそういう態度はもう通用しなくなったのではないでしょうか。
ただ、カウアンさんが会見で「ジャニーズファンへのメッセージを」と問われて「自分の好きなアイドルやタレントの応援を続けるのはいいんですけど、そういうこと(性暴力)も事実としてあるので、そこから目を背けるのではなくて、事実としてあることは理解したうえで、リスペクトして応援するのがいいと思います」と話していたように、性暴力の事実があったとしても、アイドルから元気をもらっていたことも事実ですし、今もそうであるならば、その愛は持ち続けてもいいと思っています。
でも、当時10代の頃の僕のように、性暴力のことを風化してしまうのはダメですよね。この問題が忘れ去られて「なかったこと」にされるのは絶対に良くない。ファンとしては、事務所に対して誠実な対応を求め続けることが、推しを守ることになるのではないでしょうか。性暴力問題に向き合うことと、推しを応援することは両立できると思うので、ファン同士でもきちんと言葉にして考えていきたいです。
報道や記者会見を見て、推し活を続けることについてファンから葛藤が聞こえてくることもあります。エンターテインメントとしてファンが純粋に楽しく推し活ができるように、ジャニーズ事務所にはこの問題に、表面的ではなく、これまで被害を心に抱え続けてきた方々はもちろん、今回の報道に怒りや悲しみをもった人たちが納得する形で、真摯に向き合ってほしいと思います。