自宅で突然死した父――警察による「2時間の事情聴取」と「通帳の捜索」で大騒動
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
90歳間近の父を突然失った宮坂志満さん(仮名・60)。
夕方まで元気に出歩いていた父は、晩酌の途中で具合が悪くなったようだった。ただ「胃が痛い」と受け答えもできたので、翌日まで様子を見ようと判断した。
翌朝、父はすでに冷たかった
翌朝、いつもより早く目が覚めた宮坂さんは、父宅の居間を覗いた。いつもなら、とっくに起きて味噌汁を作っている時間だ。
「ところが電気がついていません。ああ、まだ具合が悪いんだとがっかりして、父の寝室で『まだ具合悪い?』と声をかけました。室内は暗くて、父の表情は見えませんでした。返事がないので、もう一度声をかけながら、父の顔を覗き込むと……昨晩と同じ体勢のまま、父は冷たくなっていました。口を少し開けて、まるで眠っているようでした」
「ああ……」としか声が出なかった。急いで娘を呼びに行った。2人で父の傍らにへたり込んでしまった。
「もう救急車を呼ぶ状況ではないのは明らかでした。娘と『でもまずは救急車よね』と話して、救急車を呼びました」
それからは、怒涛の中に投げ込まれたようだった。
救急車と消防車が到着し、防護服を着た救急隊員が5人ほど家の中に踏み込んだ。が、「もう死後硬直が始まっていて、病院に搬送する状態ではありません」と告げられ、警察がやって来た。
警察官による事情聴取と通帳の捜索
「刑事」と名乗る目つきの鋭い男性と、男女の捜査員が10人ほど、どやどやと入ってきた。刑事からは、昨日の父の様子から始まり、発見するまでの経緯、父の毎日の生活、家族や親せき構成、交友関係、若い頃からの職歴など、2時間以上、子細に話を聞かれた。
「自宅で亡くなると大変だとは聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。事件性がないかを調べるために、これほど細かく聞くんだろうと納得はできました。当然、私たち家族も疑われている前提です。妹とはもう30年以上前から絶縁状態なのですが、その理由なども聞かれました。話せば長くなるので、『まあ、いろいろ事情がありまして……』と言葉を濁してしまい、後で娘に『そんな言い方したら、ますます怪しいじゃない』と怒られましたが。でもこの事情聴取は、父のこれまでの人生を振り返る良い機会にもなったような気がします」
父の携帯電話は押収された。メールや通話履歴から、交友のあった人たちに警察から連絡が行ったらしい。突然警察から電話が来て、父の死を知らされた父の友人たちは、どんなに驚いたことだろうと恐縮したが、自宅で亡くなるとはそういうことなのだ。
「それから、強盗などの可能性はないかということで、警察から通帳の置き場所を確認されました。父は自分で金銭管理もしていたので、通帳のありかは私もはっきり把握していませんでした」
ただ、心当たりの場所はあった。数年前、父が入院し手術する際に、万一のことを考えて通帳の置き場所を確認しておいたのだ。
「あのときに聞いておいてよかったと思いました。それでその場所を警察に伝えたんですが、『ない』と言うんです。『やられた』と苦笑しました。父は私に通帳の隠し場所を知られたので、退院後に変えたんでしょう。これでイチからやり直しです。それから、警察の人たち総出で、家じゅう大捜索することになりました」
警察官10人ほどの人数で、冷蔵庫の中から、仏壇やタンス、押し入れなどを探すが見つからない。宮坂さんも狐につままれた思いだった。それどころか、これまで使っておらず扉も開きっぱなしだった金庫にもカギがかかっていることが判明したのだ。そのうえ、そのカギも見つからない。とうとう宮坂さんも警察と一緒にあちこち探すことになった。
大捜索から3時間。「ありました!」と捜査員が見つけたのは、父が以前通帳を隠していたのと同じ部屋、押し入れの奥からだった。
「私も一度手を入れて探ってみた場所でしたが、もっと奥に入っていたようです。警察が来ていなければ、後で私たちが必死で探すことになったでしょうから、通帳が見つかったのは警察のおかげかもしれません。それにしても警察官10人で探して、3時間もかかるってどういうことでしょうね。泥棒のほうがもっと早く見つけるんじゃないかと思ったほどでした」
金庫のカギはとうとう見つからないままだったが、通帳が見つかったので、警察はそれだけを押収して帰った。警察が引きあげると、宮坂さんは呆然と座り込んでしまった。それほどの大騒動だった。