コラム
彼女が婚外恋愛に走った理由

30代前半の妻は、なぜ「ママ活」を始めたのか? 男の子とのデートは「心の拠り所」

2023/04/01 16:00
いしいのりえ(イラストレーター)

 家庭を持っている女性が、家庭の外で恋愛を楽しむ――いわゆる“婚外恋愛”。その渦中にいる女性たちは、なぜか絶対に“不倫”という言葉を使わない。仰々しく “婚外恋愛”と言わなくても、別に“不倫”でいいんじゃないか? しかしそこには、相手との間柄をどうしても“恋愛”だと思いたい、彼女たちの強い願望があるのだろう。

(C)いしいのりえ

 約3年にわたって続いていた「コロナ禍」がようやく明けようとしている。

 今年2月10日、政府は「3月13日から 原則マスク着用は個人の判断に委ねる」と発表。ゴールデンウィーク明けの5月8日には、新型コロナの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザなどと同じ 「5類」へと移行する方針を決定した。

 これまでの日常がひっくり返ったこの3年間――生活様式を大幅に変更せざるを得なかった中、 平穏な夫婦関係に異変が生じたという人 も多かっただろう。

 筆者自身、思い返せないほど、久しぶりに対面での取材が叶った。

「やっと、やっとですよ……!」

 そう言いながら、春らしいパステルカラーのニットで待ち合わせ場所のカフェに現れた優里さん(仮名)。マスクで覆われていながらも、その口元はあふれんばかりの笑みであることが想像できた。

「最近リモートワークばかりだから、たまの外出の時は、つい張り切ってメイクしちゃいますよね」と目を細める彼女の目元には、淡いカラーのアイシャドウが輝いている。

 対面して間もなく、優里さんはせきを切ったように早口で話し始めた。

「この3年、うちみたいなエンタメ系の会社はシャレにならないほどヤバかったです。開催されるかどうかわからないのに、どうやってイベントの営業 かければいいのか……にもかかわらず、成績悪い人材はじわじわと自主退職させるように仕向けてきて。うちの会社、完全にブラックですよ」

 優里さんは、そんな会社に夫婦そろって在籍しているという。そのストレスは計り知れないものであり、夫婦関係にも暗い影を落としてしまいそうなものだが、 「でも私の場合は、完全にホワイトな“婚外恋愛”でストレスを解消してきたので、全然オッケーです!」と優里さんは明るい。

夫の風俗通いに気づいた妻は、マッチングアプリを始めて……

 30代前半の優里さんが夫と知り合ったのは、7年前に現在の会社に就職してからだ。

「中小規模の企業で、夫も私も営業職です。トップがとにかく『足で契約取れ』ってタイプだったので、2人でがむちゃらに あちこち走り回っていました。だから夫とも距離を縮めやすかったんですよ。同じ地方に出張に行くって申請して、出張先でデートして……って感じで」

 入社してから数年で、2人の関係が社内でうわさになり、程なく結婚。その後も仕事を続けたが、そんな2人を襲ったのがコロナ禍だった。

「競合の会社が次々と経営難になっていきました。もちろんうちの会社も例外ではなく、緊急事態宣言が発令されたタイミングなど、事あるごとに1人、2人と退職していくように。それまで毎日のようにやっていた、全国津々浦々を駆け回る営業方法は通用しなくなり、リモートで営業しようと試みたけれど、まったく成果が得られない。完全週5でフルリモートだったときは本当に地獄でしたよ」

 先が見えないコロナ禍、どうやって契約を取ればいいのか、開催の確約できないイベント案件に頷いてくれるクライアントなんているわけがない―― 優里さんと夫は、暗中模索のリモート営業を、それぞれ寝室とリビング でやっていたという。当時を振り返り、 優里さんは「そりゃあストレス発散したくもなりますよ」と声を大にする。

 そんな折、優里さんは夫のひそかなストレス発散に気づいた。

「たまたまリビングで、夫の仕事用パソコンの履歴を見て、風俗に通っていることを知ったんです。会社貸出のパソコンから風俗を予約するってバカじゃないの? って思いましたけど、まあ風俗くらいならいいか、って。ていうか自分も『本気じゃないなら、やってもいっか』 って」

 現在、優里さんはマッチングアプリを使い「ママ活」をしているという。

「最初は顔だけで選んでいたからか、若いだけで価値があると勘違いしている横柄な態度の男ばっかりに当たっちゃったんですよ。まあそういう奴には『誰が金払うか』って言ってやりましたけど ……今、関係が継続している男の子は、アプリを始めて4人目に会った子です 」

 優里さんは、その彼と「ただ公園を散歩したり、美術館に行ったり、2~3時間くらいの他愛もないデートをする仲」になったそう。

「彼といると、殺伐とした仕事のことも家庭のことも忘れられます。体の関係はなく、ピュアな恋愛ですが、心の拠り所というか。コロナ禍が明けても、この業界がいつ平穏に戻るかわからないですし、今は転職する勇気も体力もない。それでもこの底辺の企業で頑張れてるのは、“彼とデートしたいから”なんですよね 」

 つらい日常の中、つかの間の癒やしを求める優里さん。夫は「戦友」だと断言し、風俗通いについては「私との関係をなおざりにするようになったら、すべての証拠を突きつけて土下座させる」と笑った。

 コロナで一変した世の中。優里さんの話を聞いていると、 激動の中で芽生えた新しい夫婦の形も存在しているのかもしれない、と思った。



いしいのりえ(イラストレーター)

イラストレーター、ライター、官能小説研究家。主に恋愛系の取材・執筆を行う。 著書に『女子が読む官能小説』『性を書く女たち:インタビューと特選小説ガイド』(ともに青弓社)。

公式サイト

最終更新:2023/04/01 16:00
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