『ザ・ノンフィクション』令和VS昭和の労働観――老舗レストランに就職した若者の“甘さ”とは?
日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。3月26日の放送は「新・上京物語 2023 前編 ~二十歳 夢の迷い道~」。
『ザ・ノンフィクション』あらすじ
若者の初就職を見つめる毎年春の人気シリーズ「新・上京物語」。2021年4月、浅草に本店を構える洋食店「レストラン大宮」に3人の新人が入る。栃木県にある高校の調理科を卒業した18歳の「ちはる」と「らいち」、茨城県出身で、調理師専門学校を卒業した19歳の「あかり」だ。
昨年の『新・上京物語』。3人の入社したての日々はこちらから
前回放送から1年。入社2年目となったちはるは浅草店でホールの仕事を、らいちは新丸ビル店、あかりは浅草店で調理の仕事を続けている。
らいちの先輩で、新丸ビル店の厨房を任されている入社5年目、24歳の古川はレストラン大宮で提供している洋食から、より本格的なフレンチを勉強したいと新たな目標を抱くようになる。大宮勝雄シェフも古川の思いを汲み、フレンチの巨匠が集うイベントに古川を連れていく。さまざまな著名フレンチシェフと大宮シェフの親交の深さを目の当たりにし、古川は圧倒されつつも刺激を受けた模様。
なお、自身も26歳で世界に飛び出した大宮シェフは、キャリアアップによるレストラン大宮からの従業員の「卒業」は歓迎する方針。レストラン大宮から「公邸料理人」に転身を遂げ、世界各国の日本大使館で、外交官が開くパーティーを豪華な会食でサポートしている料理人も多い。
ステップアップの期待が膨らむ古川だが、晴れて卒業するには右腕のらいちの戦力化が求められる。しかし、らいちは大宮シェフに22年9月で会社を辞めたいと連絡する。らいちは週1の休みしかなく、プライベートの時間が少ないため転職を決意した旨を話すも、これまでこの世界で働きに働いてきたであろう大宮シェフにしてみれば、らいちの転職理由はピンとこなかったよう。2人の話し合いはしばらく平行線をたどっていたが、らいちからほかの会社の面接も受けている、と聞かされた大宮シェフは観念する。
古川はらいちの心境の変化は察していたようで、持ち場などを変えてみるといった配慮はしていたが、(手を打つのが)遅かったようだと話す。らいちと同じ高校出身のちはるも、らいちの決断に驚きつつも、自分も辞めたいと思うことがあると明かす。番組の最後はらいちの送別会で終わった。
『ザ・ノンフィクション』令和VS昭和の価値観
20歳のらいちの「週一休みはきつい、プライベートの時間も大切にしたい」と、71歳の大宮シェフの「目標や夢のために四の五の言わずにまず働け、働けばいろいろ見えてくる」は、令和と昭和の労働観のぶつかり合いといった趣だった。どちらの言い分もわかるし、どちらが間違っていて、どちらが正しいということでもないだろう。
ただ、これはあくまで広い視野で見ればという話。「レストラン大宮」は有名老舗レストランなのだから、料理修行の過酷さは予想できたはず。らいちが抱いた「レストラン大宮で頑張る」という入社前の志は、結果として見積りが甘かったのだろう。
『ザ・ノンフィクション』そもそも飲食は多忙な業界
飲食業界は多忙な印象があるが、実際、厚生労働省の「平成 30 年就労条件総合調査の概況」を見ても年間の休日数は、他業種と比べ一番少ない(※この資料上では宿泊業・飲食業で定義されている)。
そもそもレストラン大宮に限らず、飲食業界は休みが少なくなりがち。調理科を卒業したらいち自身も、これを知らなかったはずはないと思うが、それをリアルな生活としてはとらえきれていなかったのだろう。
これはらいちに限ったことではない。ある職業を目指しているときは、夢や希望ばかり目に入り、過酷さであったりしんどい側面は「自分ならそんな困難だって乗り越えられる」とつい甘く見てしまいがちだし、若くて就業経験がなければなおさらだ。
なお、らいちの部屋には調理科の学生時代のコックコートが飾られており、色紙代わりに同級生からの寄せ書きが全面に書かれていた。高校卒業から1年半ほどたった番組取材時、本格的な料理の世界を離れた調理科の同級生は多いと、らいちは話していた。
プライベートの時間が欲しいと話していたらいちだが、同業への転職を志望しているよう。「転職で大幅にプライベート時間増」となるのは難しそうにも思えるのだが、このあたりは後編で明らかになるのだろう。
次週は今週の続編。らいちと同じ高校を卒業したちはるも、らいちの退職に思うところがあったようで……。
平成 30 年就労条件総合調査の概況(休日数はp5)