母亡き後、父との同居を事後報告した兄……家と土地の相続をめぐる妹のモヤモヤ
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
父を気にかけてくれていた兄
浅倉貴代さん(仮名・39)はここ数年、兄とこれまでで一番良い関係を築いている。
「母の死でわかった“一族の支配者”――『ママがいなくなったんだから……』優しい伯母の正体」で登場してくれた浅倉さん家族は、“女が強い一族”だった。母、隣に住む母の姉と祖母、従姉妹たちとは密に付き合っていたが、父や兄家族とはあまり接点がなかった。
そんな関係が一変したのは、母の死だった。まだ50代だった母が急死すると、伯母との関係がぎくしゃくし出した。みんなで使っていた別荘の維持管理費など、お金のことをこまごまと言われるようになり、それまで防波堤となっていた母がいなくなったことで、伯母や祖母からの軋轢が直接、浅倉さんにのしかかってくるように思えたのだ。
そうするうちに別荘にも足が遠のき、あれほど仲のよかった従姉妹たちとも会うことがなくなっていた。
その代わりのように親密になったのが、兄家族だった。
「兄より年上のお嫁さんが苦手で、ずっと敬遠していたのですが、それで気が付かなかった兄のマメさがわかったんです。一人になった父のことを気にかけて、ちょくちょく実家に顔を出しては掃除をしたり、お金に無頓着な父のために金銭管理をしたりしてくれていたようで、すっかり見直しました」
浅倉さんは、実家の隣県に住んでいることもあって、父の面倒を見てくれる兄を信頼し、感謝していたという。
同居の事後報告に納得できない……
ところが、先日兄から突然「父さんと一緒に住むことになった」と聞かされたのだ。
「兄家族のマンションを売り、実家をリフォームして父と同居するというんです。もうマンションも売りに出していて、同居も決まったことだと言うのでモヤっとしてしまいました。私には一言も相談してくれなかったんだ、と」
決まってから伝えたのは、事前に相談したら、浅倉さんに反対されるかもしれないと思ったからじゃないか、と疑念を抱いた。
「兄のお金でリフォームするというので、父の介護も兄夫婦がする覚悟なんでしょうから、私はラクではあるんですが……」
そういいながらも、納得できない表情だ。
家の名義は父だが、兄がリフォームして同居するとなると、家も土地も兄が相続することになるだろう。そのつもりで、浅倉さんに打ち明けるのはすべて決定した後になったのではないかと疑ってしまう。
「家や土地、ちょっとアテにしてたんだけど」と軽く笑う浅倉さん。
「さすがに、父が死んだ後に『土地や家の評価額の半分を私にちょうだい』なんて言ったら兄が困るでしょう。そんなお金、工面できるわけがないですから。父にも家や土地以外に預貯金はないと思うし」
モヤモヤを抱きながらも、兄家族とはこれまで通り付き合っていくつもりだ。疎遠になった伯母や祖母のようにはなりたくないと思う。母が生きていた頃は、伯母一家と隣同士で互いの生活も丸見えだったのに、今や他人以下なのだ。
「実は、伯母が1年ほど前に亡くなっていたというんです。そんな大切なことさえ、私たちには知らされていませんでした。一人になった祖母はますます頑なになっていて、兄家族が実家に戻ってくるのもイヤがっているらしいです」
兄家族が父と同居すると、隣の祖母との関係はどうなるのか。トラブルにならないか心配する半面、面倒なことに巻き込まれないで済んだと、ホッとする気持ちもあると明かした。家や土地と天秤にかけると、どっちが得なのか。その結果はまだはわからない。