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『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』親子でウクライナから日本に避難――適応する娘とホームシックになる息子

2023/02/28 17:17
石徹白未亜(ライター)
写真ACより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。2月26日は「たどりついた家族 2 前編 ~戦火の故郷と母の涙~」というテーマで放送された。

『ザ・ノンフィクション』あらすじ

 2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。プーチン大統領は同年秋口から、核兵器の使用もほのめかしている。

 ウクライナ首都キーウ(キエフ)から400キロ離れた同国東部の街、ドニプロで暮らしていた45歳の母マーヤと、7歳の娘レギナ、5歳の息子マトヴェイは、開戦から10日ほどたった3月5日、日本へ避難するためにドニプロを発つ。日本にはマーヤの長子であり、レギナとマトヴェイにとって年の離れた姉・アナスタシアが、日本人の夫・和真と結婚し、新宿で暮らしているからだ。

 ドニプロを発った一家3人は、ウクライナの西に隣接するポーランドの首都・ワルシャワまで2日間かけ電車で移動。ワルシャワの駅はウクライナから難を逃れてきた人でごった返していた。その後、一家は生まれて初めての飛行機を3本乗り継ぎ、出発した日から12日かけて、ようやく日本にたどり着く。

 当初、一家3人はアナスタシアの夫・和真の家に身を寄せていたが、その後は都営住宅で暮らすことに。小学生のレギナは友達を家に呼び、運動会ではお気に入りの『鬼滅の刃』(TOKYO MXほか)の歌で踊り、ひらがなの表を読むなど、日本の暮らしに適応しているように見える。一方、幼稚園に通うマトヴェイはホームシックになっているようで「夏にはウクライナに帰ると思ってたよ」とマーヤにこぼし、ウクライナ国旗の元に3人(マーヤ、レギナ、マトヴェイ)がいると思われる絵を描く。

 和真、アナスタシアも、マーヤに日本に留まるよう話すも、彼女にはウクライナに戻らないといけない事情があった。マーヤには障害のある兄・ジェニャがおり、ジェニャの世話を高齢の義理の母、サーシャに頼み日本に来ていたからだ。なお、マーヤの夫は心臓発作で侵攻前に亡くなっている。

 そんな中、新型コロナウイルスの流行で延期になっていた和真とアナスタシアの結婚披露宴が行われることに。マーヤはアナスタシアのため、2日がかりで伝統的なパンを焼く。ウクライナの結婚式では、そのパンを新郎新婦が食べさせ合う風習があるという。娘の晴れ姿を見つめるマーヤだったが決意は変わらず、レギナとマトヴェイを和真とアナスタシアに託し、ウクライナに一時帰国することを決めた。

 マーヤは、ウクライナに戻ることに対し、番組スタッフへ「もちろん恐怖心はあります」「兄のことがなければ日本に残ったわ」と心中を明かす。

 この時点でマーヤ一家がウクライナを発った侵攻当初から半年ほどが経過しており、その間もロシア軍はウクライナ国内の鉄道はじめ、交通インフラの爆撃を繰り返したため、国内の鉄道の運行状況もはっきりしない状況だ。日本からウクライナの鉄道の切符を予約しようとしても、そもそも鉄道会社のサイトさえ見ることができない。

 さらにマーヤが日本を発つ前日に、彼女が帰るドニプロにロシアのミサイルが着弾したと報じられる。マンションやビル数棟が飲み込まれてしまうような巨大な爆発雲の映像が伝えられていた。マーヤは「カメラの前で全ての感情を見せるわけにはいかないけど、心の奥底には不安と恐怖しか……」と話す。

 そして10月11日、マーヤは日本を発つ。レギナもマトヴェイもマーヤにしがみついて泣いていた。成田空港の出発ゲートを通った後、マーヤは振り向いて笑顔で手を振っていた。

『ザ・ノンフィクション』長引く戦争と失われる関心

 ウクライナ侵攻は当初、早期終戦になるという専門家の意見も多く報道されていたが、1年がたっても終わりの兆しが見えない。開戦直後は日本のテレビでも、ウクライナとロシアを特集した多くの番組が組まれ、個人でも終戦への願いを込めてか、SNSのアイコンにウクライナの水色と黄色の国旗の絵文字を付ける人がたくさんいた。

 しかし1年たつと、ウクライナのことをメディアが取り上げる機会は激減しているし、開戦直後ほどウクライナ国旗をSNSアカウントにつけている人は見かけない気がする。遠い国の戦争から日常へと興味が移り変わったといえばそれまでだが、その点で『ザ・ノンフィクション』が今、ウクライナの人々について放送することには大きな意義がある。私も今回の原稿料の一部を然るべき支援団体に寄付したい。

 来週は今回の後編。ウクライナに戻ったマーヤの身に起ったこととは。また一方で、日本で弟、妹たちの面倒をみることになった長女・アナスタシアも生活の変化を余儀なくされる。

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2023/02/28 17:17
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