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『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』やくざの妻だったママ、元ツッパリのマスターも「酒と涙と女たちの歌2 ~塙山キャバレー物語~ 後編」

2023/01/24 15:29
石徹白未亜(ライター)
写真ACより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。1月22日の放送は「酒と涙と女たちの歌2 ~塙山キャバレー物語~ 後編」。

『ザ・ノンフィクション』あらすじ

 茨城県北部、日立製作所の企業城下町でもある日立市。全国チェーン系の商業施設や、飲食店が並ぶ国道沿いには、昭和で時が止まったかのような簡素な青いトタン張りのスナックや居酒屋が並ぶ「塙山(はなやま)キャバレー」と呼ばれる一画がある。60年ほど前に誕生し、現在は14軒が営業中だ。

 塙山のママたちは“人生のベテラン”勢が多いが、2021年に30歳で店を始めた若いママもいる。「あーちゃん」(以下カギカッコは店名)のママは、母親が精神疾患にかかり、誰にも話せず、家にも帰りたくなく塙山で酒を飲んでいたところ、「わいわい」のママに話を聞いてもらい、励ましてもらっていたという。

 「あーちゃん」開店の日、塙山のママたちは自分の店は開けっぱなしにして「あーちゃん」を訪ね、カウンターで酒を飲んだり、さらには自分の店の客を「あーちゃん」に行かせるなど、新米ママを歓迎する先輩ママたちの懐の深さを見せていた。

 先輩ママたちのバックグラウンドはさまざまだ。「わいわい」のママの夫はやくざの組長だった。安全のため夫から家に居ることを命じられ、籠の鳥状態で過ごしてきたという。ママが50歳を過ぎた頃に夫が亡くなり、やくざの世界とは縁を切って、これからは好きにやると水商売を始め、塙山キャバレーにたどり着く。今も、ママを慕う強面の男たちが、カウンターを囲むときもある。

 「酔った」のママは人見知りで、「嫌な人は嫌なんだもん」と話し、客のカラオケ熱唱に背を向けていることもあるが、客たちはそんな「塩対応」もたまらないようだ。ママの夫・静雄は大工の棟梁で、不自由ない暮らしをしていたそうだが、25年前に静雄が仕事で約1億円の負債を抱えることになる。ママに負担をかけないために離婚、いっとき音信不通になるも2人はその後、再会。静雄は75歳となった今も大工の仕事をしながら、日々、ママが営む「酔った」に通う。毎回それほど飲み食いはしないものの、お会計は一律5,000円だ。

 塙山には男性店主もいる。「永ちゃん」マスターは、料理は苦手でシシャモを魚焼き網に焦げ付かせてしまうが、塙山キャバレーのトタンでできた共同トイレに60年なかった換気扇を手際よく取り付けられる貴重な男手だ。

 「永ちゃん」のマスターは、塙山キャバレー最年長店主である82歳の「京子」ママの息子。高校時代はリーゼントを決めたツッパリで将来を危ぶまれていたものの、今は「永ちゃん」を切り盛りしつつ、昼間は大工のアルバイトと、かいがいしく働いている。

 なお、前編で内縁の夫を亡くし、店のやる気も失いかけた「ラブ」のママだが、塙山のママや客たち、また娘の支えもあり、店を続けている。

『ザ・ノンフィクション』百戦錬磨のママたちが見せた優しい顔

 前回21年の放送回では、当時30歳の「あーちゃん」ママが塙山で開業しようと準備し、先輩ママたちがそれを気遣う様子が伝えられていた。先輩ママたちは、普段は割烹着でタバコをくゆらせカラオケを熱唱し、酔客をこともなげにあしらう百戦錬磨の風格を漂わせているが、新米のあーちゃんママの開業準備を見守るまなざしは、娘の晴れ着姿を眺める母親のような穏やかで優しいものだったのが印象深かった。塙山に若いママが来てくれたのが、先輩ママたちにはよほどうれしかったのだろう。

コロナで変わった酒の飲み方

 新型コロナウイルスが蔓延しだしもうすぐ3年がたつが、「酒の飲み方」も大きく変わった。「オンライン飲み」はまさに新しい酒の飲み方だ。あれが苦手だと話す人も多いが、筆者は、いつでも寝られるし、退屈だと思うときはパソコンで堂々とほかのことをしていてもバレないし、安く済むし……と、いつまでもオンライン飲みの風習が残ってほしいと思うくらい気に入っている。

 オンライン飲みになじめなかった人はまた外に飲みに行くのだろうが、私のようにオンライン飲みになじんだ酒好きにとっては、「外で飲む楽しみ、外で飲む動機」がかなり薄れてしまっているのではないだろうか。外で飲めば、金はかかるし、出歩くために気合を入れないといけないしなど、デメリットを挙げればきりがない。

 一方で、「外で飲む楽しみ」は今回の前後編が教えてくれた。「人っていいな」としみじみ思うのはやはり、オンラインよりカウンターだ。

 21年の放送を見て「絶対塙山キャバレーに行く」と決めたが、コロナ対策で塙山キャバレーの営業が不明瞭な時期もあったこともあり、ずるずると2年近くたってしまった。前編で、火事を起こした元ラーメン屋・のぼるが亡くなったと伝えられたが、永遠はない。日立に連泊し、塙山キャバレーハシゴ酒ツアーを今年春に行いたい。

 次週は「ザ・ノンフィクション 私が踊り続けるわけ2~56歳のストリッパー物語~前編」。日本最高齢・56歳となるストリッパー・星愛美。彼女に魅せられたファンは「星組」と呼ばれ、星組同士の絆も深い。一方で、星自身も体力の限界を感じており……。前回の星や、星組の様子はこちらから。

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2023/01/24 15:29
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