コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

生活保護を受ける兄と財産分与の問題に直面――30代で両親を看取った女性が「公平に半分」と決めた理由

2022/11/20 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 高次脳機能障害の父、博之さん(仮名・69)の体調が悪くなり、瞬く間に看取り期となった。娘の中村万里江さん(仮名・36)は、博之さんが入居しているホーム近くのホテルに泊まりこんでいたが、ちょっとベッドから離れている間に博之さんは旅立ってしまった。

父を見送った後、旅へ出ることに

 中村さんは、母・晃子さんの葬儀から1年もたたないうちに、博之さんの葬儀を行うことになった。晃子さんのときと同様、対面での葬儀とオンライン葬儀だ。

「2年連続で葬儀を出すとは思ってもみませんでしたが、明らかに自分の“能力”が上がっているのがわかりました」

 博之さんが亡くなった翌日には、博之さんの思い出ビデオ制作に着手した。そしてその日のうちに、旅に出ようと決めていた。

「この地にいるとつらい。何か楽しいことをしたいと思ったんです。慶弔休暇をフルに使って、旅に出ようと思いました」

 葬儀を終えると、1週間、九州にいる友人たちのもとを回った。そして自宅に戻ると、日常を取り戻そうと弁当づくりに精を出したという。

「母のときは、重い荷物を持っているお年寄りを手助けするなど、人を助けることで日常を取り戻していきました。今度は、出来合いのものを食べる生活が続いていたので、丁寧な食生活をしようと思ったんです」

生活保護を受ける兄と相続問題

 両親が亡くなり、相続問題にも手をつけないといけなかった。実家は、晃子さんの死後、ガレージセールを開いてほとんどのものは片づけていたが、土地や家屋、博之さん名義の預金や株がある。

 中村さんの頭を悩ませていたのは、関西で生活保護を受けている兄のことだ。

「親の財産を相続すると生活保護はもらえなくなります。兄は生活保護を受給し続けたいので、相続放棄したいと言いましたが、そうすると今後、私が兄のケアをし続けないといけなくなる。それは負担が大きいと思いました。それなら土地も家も売って、公平にすべて半分に分けるのがベストだと。生活保護がもらえなくなったらケースワーカーもいなくなり、兄が金銭管理できなくなるかもしれません。だまされたりしないか、すぐにお金が底をついてしまわないか、心配は尽きませんが、それはもう兄の問題なんだと割り切ることにしました」

 両親の介護を1人で担ってきたのだから、中村さんが遺産を多くもらってもよいと思うが、中村さんはそれもすでに割り切っている。

「確かに兄は何もしませんでしたが、何もしなかったことが兄の仕事だと思っています」

 今は、相続のための目録を作成しているところだ。それから、中村さんは次のステップに移ろうとしている。

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