ベテランGメンVS100人の万引き犯! 大量盗難に苦しむショッピングモールからの救援要請
「こんばんは、お店の……」
声をかけると、すぐに振り返った女は、肩にかけたトートバッグを私に投げつけて逃走しました。地面に落ちたトートバッグを拾い、必死に走って女を追いかけると、駐車場にあるブルーの軽自動車に乗り込もうとしています。
閉まりかけのドアに体を挟んで、発進できないようにしたつもりでしたが、ひどく殺気立っている様子に見える女は、イグニッションにキーを差し込んで逃走継続の構えをみせました。このまま発進されたら、自分が危ない。窮地を脱するべく、女の右手を咄嗟に掴んだ私は、キーを持つ手を力いっぱいに握って怒鳴ります。
「あんた、このまま逃げても、すぐに捕まるわよ! 車のナンバーも、わかっているんだからね!」
すると、怒りと悲しみを合わせたような目で私を睨みつけた女は、どこか不貞腐れた様子で車から降りてきました。女が車の扉を閉めて、施錠したところで腰元をつかみ、努めて冷静に話しかけます。
「わかってくれてよかった。精算してもらえば、きっと大丈夫だから、もう逃げないでね」
「フン、どうせ警察呼ぶくせに……」
「あら? 前にも同じようなことの経験をお持ちなんですか?」
「…………」
今回の被害は、計14点、合計で9万円ほど。盗んだものは、高額な美白美容液が中心で、思いのほか高額な被害となりました。買取の可否を尋ねると、お金はないと言い切り、財布を出そうともしません。理由はわかりませんが、身分証などの提示も拒否して、名前すら教えてくれない状況です。より不貞腐れた態度で、面前に並ぶ被害品を睨む女に、報告を受けて駆け付けたマネージャーが開口一番に言いました。
「警察を呼んだので、そのまま待っていてください」
「ああ、終わった。あたしの人生、もう終わりだ」
自棄になった様子で、天を仰いで嘆く女に、そっと声をかけます。
「大丈夫。そう簡単に終わらないですよ」
「あんたに、あたしの何がわかるのよ」
「あなたのことはわかりませんけど、これを最後にすれば、きっと大丈夫だと思います」
「……あんた、何様? 余計なお世話よ」