近藤真彦と中森明菜、元カップルがそれぞれ再始動! いま振り返る2人の“いわくつき”共演映画
「いのちいっぱい恋をします。」
明菜の「消え入りそうな小声」でモノマネ再生してみたい、儚さたっぷりのキャッチコピーが躍る本作。先天性の心臓の病気から余命いくばくもないユキ(中森明菜)が、運命の相手・誠(近藤真彦)と出会い、愛と命を燃やす物語……と、あらすじだけ見れば、ありがちなアイドル映画に過ぎない。
しかしこの作品がワン&オンリーたるゆえんは、そこに「超能力」「大霊界」「宇宙」「耳なし芳一」という、製作陣のおじさんたちが思いつく限りのトンデモ題材を乱暴に投げ入れた「闇鍋映画」であるところだ。
この映画が誕生した経緯をまとめると次の通り。企画が立ち上がった当初は『太陽を盗んだ男』(79)などで知られる長谷川和彦氏が監督・脚本を担当し、明菜の単独主演で話が進んでいたという。しかし、映画初出演にして初主演という重責に耐えかねた明菜が「1人じゃ不安」「マッチとダブル主演にしてほしい」と、小声ながら頑として動かずに要望を貫き、マッチ・明菜のダブル主演と相成った。
さらに、当時の双方の所属事務所であるジャニーズ事務所と研音の意向により長谷川氏が降板。代わりに、マッチ主演の『ハイティーン・ブギ』(82)でメガホンを握った舛田利雄氏が監督に、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる笠原和夫氏が脚本に抜てきされた。
しかし、監督の舛田氏が当時感化されていた丹波哲郎の“大霊界”的世界観や、宇宙、超常現象、耳なし芳一など、「俺ちゃん、こんなのやりたい」という要素をすべてぶち込んだ結果、脚本の笠原氏が「こんなもん、まとめきれるかーッ!」と匙を投げ、最終的に舛田氏が監督・脚本を兼任して完成に至ったのだ。
そんないわくつきの“問題作”である『愛・旅立ち』だが、こうした製作経緯の「ガチャガチャっぷり」が如実に映像に出ており、どのシーンを見ても「いや、会議室でおっさんたちが盛り上がったか知らんけど」という感想を禁じ得ない。
そのうえ、おそらく舛田監督の肝煎りで実現した丹波の出演により、彼のフィールドワークである“大霊界”方面の横槍や注文が多分に入ったことは想像に難くない。丹波演じるホームレスの奈良が、誠の窮地を救ったことから行動を共にし、自らの臨死体験や「霊との交信」について語るシーンは、完全に「丹波哲郎のミニ大霊界コーナー」と化している。
明菜のわがまま、各事務所の意向、監督の趣味、監督の仲良しおじさんの横槍、そして、主演女優から直々に指名された割に、突き抜けた「棒」であるマッチの演技(人呼んで「マッチ棒」)。「トンチキ映画」ができ上がるための要因が幾重にも重なり、映画史に燦然と輝く「香ばしい作品」に仕上がっているのだ。