コラム
仁科友里「女のための有名人深読み週報」

西野亮廣がエンタメ界で売れるワケ――後輩芸人に小バカにされる隙と「現実的すぎない」トーク

2022/11/03 21:00
仁科友里(ライター)

 西野は「信用できる人」として、「周りを勝たす人」を挙げた。西野いわく「自分の取り分しか考えない人って、誰かのライバル、競合、敵になってしまうので、こういう人はすぐにいなくなっちゃうんですよ。でも、周りを勝たしている人って、みんなその恩恵を受けていて、こいつはいなきゃいけない存在なんで、こいつを潰そうとは絶対しない」となるそうだ。同番組の司会・高橋真麻は「人の幸せを自分の幸せと思える人かしら?」とまとめ、西野は「強いっすよね、そういう人って」と同意してみせた。

 私に言わせると、これは現実的すぎないという意味で、ちょうどいい。というのも、現実的に考えると、「周りを勝たす人」になるのはそう簡単ではないからだ。「周りを勝たせる人は信用できる」という、西野の意見に納得する人は多いのではないだろうか。確かにムダに戦うよりも、あえて自分が引くことで共存共栄することは、正しい作戦といえる。

 極端な成果主義に疲れている視聴者にとっては、成功者・西野が温和な作戦を掲げることで、「案外いい人かも」と好感を持つこともあるだろう。

 しかし、「周りを勝たせる」ことができるのは、ある程度の実力と実績があると認められた人でないと無理なのはは、見逃せない事実だ。

 例えば、テレビに出るようになって日が浅い新人がいたとする。彼らは、少しでも前に出て、顔と名前を売っておかなければ、次があるかわからない。周りを勝たせようと控えめに振る舞っていたら、視聴者の印象には残らないだろうし、新人をキャスティングした側には「本番に弱いのか」と見られてしまう可能性もある。

 となると、名前と実力(芸歴、実績)が世間に十分浸透していて、無理に前に出る必要がない人――もっと言うと、周りに「あの人はあえて自分が前に出ず、周りを勝たせるためにやっている」と思ってもらえる人しか、「周りを勝たせる人」になれないのではないだろうか。

 こうやって考えていくと、「周りを勝たせる人が、信用できる」のではなく、「信用のある人は、その気になれば周りを勝たせる側に回ることができる」というほうが正確な気がする。

 それでは、「信用のある人」とはどんな人かというと、繰り返しになるが、知名度と実績なわけで、たいていの人はそれがないから苦しんでいるわけだ。

 このあたりの身も蓋もないことは匂わせず、「信用できる人は、周りを勝たせる人」と語り、視聴者に「周りを勝たせる人になれば、自分も信用される」と夢を見させてしまうあたりが、西野のすごさだと思う。

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