シャインマスカットだけじゃない、野菜と果物の「すごい品種」! 食べることが大好きな人におすすめ
時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!
今月の1冊:『野菜と果物 すごい品種図鑑 知られざるルーツを味わう』竹下大学
野菜を買うとき、品種について考えることはあるだろうか。
たとえばナス、あるいはニンジンやキュウリ。「ナスは……ナスでしょ。品種なんてあるの?」という人も多いかもしれない。しかしジャガイモならばどうだろうか。男爵とメイクイーンなんて2種類は有名だろう。料理が好きな人なら、キタアカリやインカのめざめ、なんて品種を知っているかもしれない。
トマトなら桃太郎、枝豆ならだだちゃ豆なんて品種は特に有名だ。果物なら品種を意識することは格段に多いはず。ブドウなら近年のスターはシャインマスカットだし、ナシなら幸水に二十世紀なんて名前は広く知られていると思う。
現在、一般的に流通している野菜や果物には様々な品種があることを楽しく、分かりやすく教えてくれるのが本書だ。著者は育種家であり、品種ナビゲーターとして活動する竹下大学氏。
「はじめに」のページには、「日本原産の作物といえば、ナシ、ダイズ、ワサビ、ジネンジョ、ミツバぐらい」で、そのほかはすべて早いものだと縄文時代、遅くて明治時代以降に海外から持ち込まれたものとある。現在一般的に売られている野菜や果物はどれも「誰かが栽培しやすく、そしておいしく改良し続けてきている品種」なのだと説かれる。
そう、日頃私たちが食べている作物は、日本の気候に合うように、病気や虫に負けないように、そして日本人好みの味わいになるように、改良に改良を重ねられてきたものなのだ。スーパーの青果売り場にどさっと積まれた、平凡そのものに見えるナスやニンジンだって、ブリーダーたちの血のにじむような研究と努力の結晶なわけである。
書内では野菜と果物27種類を取り上げ、それぞれの日本における栽培の歴史、エポックとなった出来事、そして代表的なものからレアなものまでの品種が紹介されていく。
キュウリの項を開いてみると、まず6世紀ごろに中国から導入されたとあり、当初は「黄色く完熟したものを食べ」ていたので黄瓜と書かれ、だからキュウリになったのかと膝を打つ。明治の初めに病虫害に強く、寒地でも栽培ができる「刈羽節成」という品種ができたことで、全国から注文が殺到、昭和に初期かけて栽培面積が広がっていったことが読み取れる。
今売られているキュウリの約9割は「白いぼキュウリ」と呼ばれるもので、表面に「ブルーム」と呼ばれる白い粉っぽいものが付着しているものと、ないものがあるという。ああ、たしかに粉をふいているようなキュウリをたまに見かけるな……あれはそういう品種だったのか、などと発見がたくさんだ。
昭和22年に東京の寿司店がかっぱ巻きを考案したこと、昭和37年に東海漬物が「きゅうりのキューちゃん」を発売した、なんてトリビアが挟まれるのも楽しい。
「品種名にまで意識することのない、キャベツやタマネギ、ニンジンだって、日本国内だけでも100を超える品種が流通しています」と竹下氏。たとえばナスなら「千両」と「千両2号」という品種が一般的だが、国内では約150種ものナスが育てられていると聞く。炒めておいしいもの、焼きが向くもの、漬けものが適するものと、用途も様々だ。ナスひとつとっても、私たちはごく一部の品種しか味わっておらず、まだまだ未知の味わいがあるということになる。
食べることが大好きな人なら、ぜひ身近な野菜・果物の品種についてもっと知ってほしい。とてもおいしいけれど、知名度やニーズがなくて地方でしか売られていない品種はかなりの数にのぼる。本書で興味を持った品種を求めて旅をする、あるいは種を取り寄せて育ててみる、なんてこともおすすめしたい。
目下私は「デストロイヤー」なるジャガイモを食べてみたくてしょうがない。うま味が強いとのことだが、赤皮でまだらがあり、マスクをかぶったプロレスラーのように見えるからこの愛称がついたとのこと。紹介されている写真がまさにそのもの! ホント、いろんな野菜があるものだ。