コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

老人ホームに誕生した85歳女ボスの“戦略”「占いができるから、見てあげる」

2022/09/11 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 未婚か既婚か、子どもの数、子どもの進学先、夫の会社や役職……とかく女同士は互いを値踏みしたがるのかもしれない。たくさんの老人ホームを取材するなかでも、夫や子ども、はたまた高齢の兄弟の存在にすがっているように思える高齢女性は少なくない。「亡くなった夫は~に勤めていた」「会社を経営している実家の兄はいつも自分のことを気にかけてくれている」など、夫や兄弟の肩書を自慢するのは、自分の経歴を誇る男性よりも多い気がするのはなぜだろう。

 ある老人ホームを訪れたときに会った女性は、自慢の方向がちょっと違っていた。

周りの入居者よりもほめられたい

 その女性、土屋文子さん(仮名・85)は、脳血管障害の後遺症で半身まひが残り、車いすで入居した。夫と息子と3人で暮らしていたのだが、どうも土屋さんのわがままに手を焼いて、自宅で介護するのは無理だとホームに入居させることにしたようだ。

 突然、身体の自由が利かなくなった土屋さんにとって、家族からも見捨てられたようで、ホーム入居は不本意だったのだろう。誰にも心を開こうとせず、職員にきつい言葉を投げつけることもあったという。ほかの入居者との関係もうまく築けなかった。人生を諦めたように投げやりな雰囲気が漂っていたという。

 リハビリを担当する職員は、土屋さんに再びやる気を取り戻してほしいと、根気よく声をかけ続けた。そして軽いものからリハビリに取り組んだ結果、少しずつ体力がついて、車いすから歩行器を使ってならゆっくり歩けるようになったのだ。リハビリ担当者は自分のことのように喜び、土屋さんの頑張りをほめた。

 すると、土屋さんの表情に変化が表れた。もともと負けず嫌いの性格で、「周りの入居者よりもほめられたい」という気持ちに火がついたようだった。リハビリの時間はそう多くない。土屋さんは、リハビリの時間が待ち遠しい様子だった。リハビリ担当は若い男性だ。マンツーマンでのリハビリを励みに頑張る高齢者、特に女性は多い。いくつになって若い男性の存在は励みになるものだ。悪いことではない。

 土屋さんは、それだけで終わらなかった。「もっと私に注目してほしい」という思いがあったのかはわからない。ただその自己主張が、夫や子ども、兄弟の自慢をするほかの入居者とは違っていた。

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