世代を超えた女の情念を描く、怪談話のような官能小説「ごりょうの森」
怪談と官能は非常に親和性が高く、多くの作品が刊行されている。
特に女性の情念は思いが強く、一代で叶わなかった願いは世代を超え、次の世代へと受け継がれてまで昇華される、などの逸話も多い。
今回ご紹介する作品は、日本の怨霊をモチーフに、現代に生きる男女の情愛を描いた花房観音の官能短編集『ごりょうの森』(実業之日本社)。7編の作品のうち、今回は表題作である「ごりょうの森」をご紹介する。
主人公の高木は京都の料理屋を営む父の一人息子で、幼少時代はお手伝いを雇うほどの裕福な家庭で育った。
大学を卒業してから父が営むレストランに就職し、支配人の美也と出会う。美也は一度離婚をしており、元夫のところに娘がいる。高木はかつて交際してきた同世代の女性には感じなかった、一人で生きる女性の逞しさ、色艶と品を持つ美也に惹かれていくが、実は彼女が父の愛人であることを知る。美也は父の子を妊娠していたのだ。
離婚をして美也と一緒になるという父の申し出を母親は一蹴し、弁護士を立てる騒ぎになった。結局、美也は京都を離れて実家に戻り、のちに流産、美也も体調を崩したまま亡くなった。
高木の父は亡くなり、母は施設で暮らしている。
その矢先に、高木は馴染みの小料理屋で美也によく似た女性に出会った――彼女は美也の娘、琴子であった。
高木は現在、家庭を持っているが、子どもを授かってからもう10年ほど妻との営みはない。かつて惹かれていた年上の女性と瓜二つな琴子を目の前にし、高木は欲情し、体を重ねた。
もう50代になる高木は、まるで美也と出会った20代の頃のように心が躍った。琴子のマンションに通い詰め、お互いが欲しくてたまらなくなるセックスを繰り返す――高木は50という歳で、あらためて女の体に夢中になった。
妻には嘘をついて琴子の元に行っていたが、妻にはとうにバレていた。
「容認する」と妻に告げられた夜、ふと父のことを思い出す。美也を選び、離婚を決意した父。琴子のことは愛しているが、父親のように家庭を捨て、琴子と共に生きることはできない――そう感じつつも琴子と離れられずにいる高木は、どのような結末を迎えるのだろうか。
本作は、京都の上御霊神社になぞらえた作品になっている。祀られている八柱の神様の中には井上内親王という女性の神も存在する。無念の死を遂げ、怨霊担って祟る霊を鎮めるための神社だ。
代々祟るほど、女の情念は強い。娘の体を使い、息子を滅ぼそうとするほどに。
怪談話にも感じられる本作、ぜひこの夏にご一読いただきたい。
(いしいのりえ)