『週刊さんまとマツコ』めるるを当てこする菊地亜美に見る“悪い思い込み”
羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「私、こんなしゃべらなくても売れるわ」菊地亜美
『週刊さんまとマツコ』(TBS系、7月3日)
この世で怖いものは何か。考えるといろいろあるけれど、「一つだけ」と言われたら、私は「思い込み」を挙げる。
思い込みは、私たちを不幸にする。例えば、新卒大学生向けの就活情報サイト「就活の教科書」に公開された記事は、まさに思い込みによる不幸について考えさせるものだった。
同記事内には“底辺職”として具体的な職業が挙げられており、ネット上で「職業差別だ」と炎上した。ライターや編集部が、こうした極端な言葉をあえて使ったのは、匿名掲示板「2ちゃんねる」開設者・ひろゆき氏らインフルエンサーの真似なのではないだろうか。
彼らの発言には「人の評価」にまつわる言葉が、よく使われているという印象を受ける。「Fラン」「低収入」「無能」「無価値」……なぜ、彼らがそういう言葉を使うかといえば、人は誰しも「あなたは価値がある」と言われたいもので、特に人に褒められたい気持ちが強い人ほど、けなされることを恐れ、けなし言葉に敏感になってしまうからだ。インフルエンサーはそのあたりの機微を熟知しており、わざと「おまえは無価値だ」と端的に表す言葉を使用して、人の興味を引き、数字を稼ぎ、現在の地位を築いたのではないか。
先に挙げた“底辺職”の記事も、ニュースサイト「週刊女性PRIME」によると、これが“底辺職”だと脅して耳目を集めた後、その職を回避するために利用すべきサイトを紹介し、クリックを誘導する仕掛けをしていたそうだ。
問題は、判断力のない若い人が、こういうけなし言葉を含んだPV目当ての情報を信じてしまうことだ。世の中に“底辺職”などというものは存在しないことは言うまでもないが、「お前の仕事は底辺だ」と人から言われたくない思いが強い人ほど、“底辺職”とはどんな職種か知りたくなるだろう。さらにライターや編集部の主観でしかない“底辺職”を、本当に“底辺”だと思い込んでしまい、その職業に就く人をも低く見るようになるのではないか。
「あの職業は、底辺だ」と思い込むのは個人の自由だ。しかし、そういう人が、何らかの理由でその“底辺職”に就くことになったら、どうなるのだろう。この世に“底辺職”なんて存在しないと思う人は、普通に仕事をして、職場の人間関係を構築していくだろうが、自分は“底辺職”をしていると思う人は、自分を恥じ、自己評価を下げ、そのため人とも関われず、孤立してしまうのではないだろうか。このように、「あの仕事は底辺だ」という思い込みは、人生をまったく別のものにしてしまうかもしれないのだ。