コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験で難関校に合格、将来安泰のはずが……東大合格発表日にモヤモヤする母親

2022/03/13 16:00
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

写真ACより

 3月10日に行われる東京大学の合格発表を前に佐和子さん(仮名)は浮かない表情を浮かべていた。

「3月10日が近付くと、なんだかモヤモヤしちゃうんです。息子の陸(仮名)の高校は、昨年、コロナ禍にもかかわらず、保護者も1名なら参加可ということで、卒業式をしてくださったんですね。それは、よかったんですが、やっぱり、お母さんたちは誰がどこの学校に入ったのか、今年、東大は何人かという話題で盛り上がっていて、その輪に入れない私は正直、寂しかったですね……」

 陸くんの通った中高一貫校は難関と位置づけされている学校で、毎年コンスタントに2桁の東大合格実績を叩き出している進学校。当然、教育熱心な親が多い。

「中学受験でこの学校に入学できた時は本当にうれしかったです。陸もですが、私も主人も本当に頑張った結果だったので、その努力が報われた思いで感激していました。そうですね、これだけの進学実績を誇る学校ですから、これで、陸の将来は安泰だなって気持ちも少なからずあったことも事実です」と佐和子さん。

 ところが、陸くんの成績は佐和子さん夫婦の期待通りとはいかず、いわゆる「深海層」に潜っているような状態だったという。

「ウチの学校は進学校には珍しく、先生方のめんどうみが良いので、陸は補習常連組でした。とにかく補習を受けて、課題を提出しない限りは進級すらも危ういって事態に、私はただただ驚くやら、情けないやらで……。周りの子は皆、中学から鉄緑会(注:東大指導を専門とした塾。塾生は主に超難関中高一貫校の生徒で占められている)に行っているのに、それどころではない現実に打ちのめされました」

 ここ最近は、コロナ禍でのオンライン授業や1人1台端末の有名無実化といった、公立学校の立ち遅れが盛んに報道されたことが影響し、中学受験が一層、熱を帯びてきている。しかし、当然のことながら、中高一貫校に入学すれば、それで将来が確約されるわけではないし、高偏差値校に入れば、自動的に難関大学の扉が開くわけではないことは自明の理である。

 言い切ってしまうならば、そこは単なる確率の問題。難関校は結果として難関大学合格への経験値が高い(しかしながら、これも先述した鉄緑会をはじめとした“塾の力”と呼ぶ人もいる)ということに過ぎないという事実は、意外と見過ごされがちだ。

「進学校にありがちかもしれませんが、親も子も“最低でも早慶、へたをしまくってMARCH”って価値観があるので、それ以下の大学となると、大学認定もされないっていうんですかね……。もちろん、公にこんなことを言う人はいませんけど、陸の学校も、そういう雰囲気が漂っているんですよ……。私自身も口には出しませんでしたが、この学校に入ったんだから、陸も早慶クラスには行けるって思い込んでいました」

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