【連載】わが子から引き離された母たち

13年ぶりに息子と再会、手を握ると「やめてください」と拒絶され……子どもと生き別れた女性が今願うこと

2021/12/31 11:00
西牟田靖

息子から「今までのことは水に流してやる」と

――それからは一度も?

 いえ。相談に乗っているうちに、アドバイスしている私が会わないのはヘンな話だと思うようになって。息子が高校2年のときに、会いに行きました。

 高校の修学旅行先である沖縄で、遠くから見つめました。5歳のときから顔は見ていなかったですけど、わかりました。美ら海水族館に行ったんです。2006年のことです。ずいぶん成長したなと思って感慨深かった。でも、声はかけられなかった。

 息子を見て、印象に残ったのは制服の着こなしのダサさ。ズボンをおへそぐらいまで極端に上げていて。そのダサい感じがなぜかショックでした。

――その後、息子さんとは会っていないんですか?


 会いました。そのきっかけとなったのは、翌年の高3のとき。私から調停を起こしました。20歳になって親権そのものがなくなる前に、きちんと会っておきたいと思ったんです。すると、最初の調停の日に、面会交流の代わりに、息子からの手紙を渡されました。生まれて初めてもらった手紙です。

 「大学に行きたいから、そのお金を出してほしい」というものでした。それに加えて養育費。「何年ももらってないからまとめて数百万円分くれ」と。Bは絵が売れなくて生活ができなくなった。なので、息子を大学に通わせるお金を払えなかったんです。

――再会して、言葉を交わせました?

 その後、審判の最後になってやっと息子に30分会えることになりました。裁判所の別室で。11年3月のことです。

 すると開口一番「お金は用意しましたか?」と言うのです。それで、息子にいろいろ質問しました。「どうしてお金が欲しいの? 大学に行きたいなら奨学金もあるでしょう?」などと聞くと、質問にひとつひとつきちんと答えてくれました。そのうちに息子が「連れ去りはいかんよ」と言ったんです。驚いて私はあのときのことを話しました。


「あのとき一緒についてくるか聞いたのよ。そうしたらあなたは『お母さんと一緒に行く』と答えたんだよ」

 息子は驚いてました。少しして気分が落ち着いた頃に、「今までのことは水に流してやる」と言いました。

子どもを連れて、逃げました。