嫁はフィリピン人。「ダイジョーブよ、母ちゃん」認知症の義母の失敗も笑い飛ばす、まるでコメディアン
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
ダイジョーブよ、母ちゃん!
介護施設やデイサービスで、外国人の介護職員を見ることも珍しくなくなった。こんな人がいてくれたら気持ちが安らぐだろうと思うこともよくある。
訪問ヘルパーをしている押野和恵さん(仮名・53)が担当している丸田孝子さん(仮名・85)の息子の嫁、マリアさん(仮名・40)はフィリピン人だ。押野さんはマリアさんに理想の介護者像を見るという。
「マリアさんは丸田さんの息子さんとパブで知り合って、数年前に結婚されたらしいのですが、丸田さんはそのことを恥じているらしく、私にもよく愚痴をこぼされています。確かに丸田さんの気持ちもわからないではないですが、マリアさんを見ていると、逆によくぞ丸田さんの息子さんと結婚してくれたと思わずにはいられません」
マリアさんは日本語があまり達者ではない。それも丸田さんをいら立たせる原因の一つのようだ。押野さんが訪問している間も、マリアさんに嫌味を言ったり、邪険にしたりする場面に出くわすことが多い。
「マリアさんも結婚以来、丸田さんにはさんざんイヤな思いをさせられてきたんだろうと思います。息子さんと結婚したのもお金目当てだと丸田さんは言っていますが、私に言わせればずっと独身だったアラフィフの息子さんが結婚できたんだから、マリアさんに感謝してほしいくらいです」
その息子は仕事の関係で、今は単身赴任中だ。夫婦には子どもがいないので、マリアさんと丸田さんと二人きりでいる時間が長い。
「息子さんがいないので、マリアさんは一人で丸田さんの嫌みやいじわるを受け止めています。それでも、私が見ていると丸田さんはマリアさんの明るい性格に救われているのではないかと思います」
マリアさんは丸田さんがどんなことを言おうと、どんな仕打ちをしようと、いつも屈託なく笑っている。日本語がうまく理解できていないことも幸いしているのかもしれない。
「丸田さんは認知症もあって、急に不機嫌になって暴言を吐いたり、時には排泄の失敗をしたりすることもあるのですが、マリアさんは『ダイジョーブよ、母ちゃん!』と笑い飛ばすんです。まるでコメディアンのようだなと感心します。マリアさんのこの対応はヘルパーや介護をしている家族にも学んでほしいといつも思います」