コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

老いてなお「姫」の母、振り回される娘2人は「金輪際、電話もかけてこないで」! 普通の母親なら子どもを心配するが……

2021/11/07 18:00
坂口鈴香(ライター)

 長子である姉のほうが、久江さんから受けた心の傷が大きいようだと感じている。だから多恵子さんはときどき志津子さんを食事に誘って慰労することも忘れない。

 姉や自分がグレなかったのは、真面目でやさしい父親の存在があったからだと思う。父親が定年退職後まもなく病気になって亡くなってしまったのも、母によるストレスのせいだと思っている。

「私たちへの防波堤になってくれていたんでしょう。昔から父は諦めたように笑って、『何か反論すれば10倍になって返ってくるからね』とつぶやいていましたが、その気持ちがよくわかります」

 先日起きた地震で、多恵子さんは友人の言葉に感じ入った。友人は母親から「地震は大丈夫だった?」と電話をもらったというが、それが地震から数日後のことで、「年を取るとタイムラグも大きいね」と笑っていた。多恵子さんも一緒になって笑ったものの、また別の感慨があったという。

「普通の母親ならそうやって子どもを心配するんだなあとしみじみ感じました。うちの母ですか? もちろん地震があったら真っ先にこちらから電話しますよ。母は心配してもらうことしか頭にないですから」

 娘二人にかしずかれる“姫”は幸せだ。多恵子さんは、ねぎらってもらうことがあるだろうか。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/11/07 18:00
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