老いてなお「姫」の母、振り回される娘2人は「金輪際、電話もかけてこないで」! 普通の母親なら子どもを心配するが……
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
竹本多恵子さん(仮名・56)と姉の志津子さん(仮名・58)は、常に自分に注目してもらっていないと気が済まない母久江さん(仮名・80)に振り回されている。多恵子さんと姉は久江さんの悪意ある互いへの愚痴によってずっと関係が悪かったが、度重なる救急車騒ぎを経て姉妹の関係は一変した。
母は「姫」
ケガの功名というか、姪の結婚式前日の“救急車事件”以来、多恵子さんと志津子さんは「同士」となった。それで母親に対する気持ちがずいぶん楽になったと笑う。
「どちらかが疲れたり、母と冷戦状態になったりすると、もう一人が対応するという分担ができるようになりました。姉とは母のことを『姫』と呼んでいます」
「“姫”がこんなこと言ってたよ」と姉と情報を共有すると、やはり母はどちらかのいないときに、もう一人の悪口を言っていたことがわかった。それも事実をうんと歪曲していたのだ。母親の操縦法も、姉と話しているうちにだんだん身についていった。
「どんなに具合が悪いと言っていても、口数が多いときは放っておいても大丈夫。それが、静かになってくると、そろそろご機嫌伺いをした方がいいかなとかわかるようになりました。心の中では『またいつものことだ』と思いながらも、心配の言葉をかけてあげるとご機嫌になります。まあわかりやすいと言えばそうですね」
自分が傷つかないようにうまく先回りするコツのようなものがわかってきたという。それでも、母のあまりの言いように堪忍袋の緒が切れることがある。先日も突然理不尽な言葉を浴びせられた。
「昔のことを持ち出して『あなたはあの時にこんなことを言ったじゃない』と罵声を浴びせられたので、『金輪際電話もかけてこないで』と電話を切りました。もう何十回目かの冷戦に突入です。今度はおいそれと折れるつもりはありません。少し頭を冷やしてくれないと」
それでもまた何もなかったように甘えた声で電話をしてくるのだろう。
「自分が窮地に立つとお金で解決しようとするので、たぶんお小遣いをあげるとか言ってくると思います」
鬼のような母の形相がよみがえる
話を聞いていると、久江さんの言動には認知症の兆候が見られるのではないかとも思える。
「姉ともそんな話をしたことがあるんですが、今になってそんな言動をするようになったのではなく、昔からそうだったよねということで一致しました。子どもの頃から突然怒りに火がついた母から何度泣かされたかわかりません。母の鬼のような形相やそのときの恐怖が今もフラッシュバックするくらいです」