コラム
[再掲]仁科友里「女のための有名人深読み週報」

瀬戸内寂聴さんが“悩み相談の達人”として人気だったワケ――「いい適当さ」を振り返る

2021/11/18 21:30
仁科友里(ライター)

 上沼のアドバイスは、夫を芸能界に戻し、矢口が養えばよいというものだったが、それがどうして夫婦円満につながるのか、私には理解できなかった。一方、あれこれ言う上沼に対して、瀬戸内が「言うこと、聞かなくていい」と口を開き、「恋愛は雷に打たれるようなもので、防ぎようがない」「会うべくして(不倫相手に)会った」「あなたは損していない」「全部あなたのプラスになって栄養になって、いいことがある」「“経験者は語る”だから、安心して」と結んでいた。

 矢口に対する世論を多少斟酌して、上沼が下げ、それでは後味が悪いので瀬戸内が上げる。番組としてうまくオチがついたわけだが、瀬戸内の発言は実質的なアドバイスでないことに気づく。実務面のアドバイスもなく「大丈夫」と言うことを無責任と感じる人もいるだろうが、相談される側が、相談者の人生に責任が持てないことを考えると、これくらいアバウトな方が、お互いにとっていいのではないだろうか。悩み相談はアドバイスの質を問うものではなく、共感をもって話を聞いた時点で終了しているのかもしれない。

 そもそも、矢口が現状に悩んでいるとは思えない。『おしゃべりオジサンとヤバい女』に出演した矢口は、「(再婚したからといって)きれいなイメージに戻るつもりはない」「再婚ってさわやかな風が吹く」と発言し、司会の千原ジュニアに「(さわやかな風)全然吹いていないよ」と否定されていた。このように矢口には、自分がいいイメージを持たれていないことに気づいていない鈍さがある。こんな鈍い人に、真剣に話をする必要はないわけだ。

 『えみちゃんねる』の終わりに、瀬戸内は「“みえちゃん”だって、こんなにチャーミングだから」と上沼の名前を間違って呼んでいた。上沼は「ほんまにファンかいな」といぶかしがるが、この適当さもまたちょうどいい。適当だから、優しくなれる。責任がないから、励ませる。さまざまな世代の悩みを受け入れるために必要な愛とは、無責任とほぼ同義ではないだろうか。国民的作家の人気の秘訣は、ドラマチックな人生や文学性はもちろんだが、案外こんなところにあるのかもしれない。

※ 2018年6月7日初出の記事に追記、編集を加えています。

仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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X:@_nishinayuri

最終更新:2021/11/18 21:39
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