芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』
韓国サイコホラーアニメ『整形水』が描く、“整形大国”になった儒教社会の落とし穴
2021/09/17 19:00
だがここで注目したいのは「90年代半ば」という時期だ。90年代に入って女性の社会進出が活発になったのはよく知られているが、それに伴って整形も右肩上がりに伸びたという事実は何を意味するだろうか。そう、就職活動において、数多くのライバルたちの中で、少しでも有利になるためである。
とりわけ、正社員の解雇が簡単にできるようになり、非正規労働者が爆発的に増えた97年のIMF時代の「就職大乱」は、女性を実力より外見で判断する「外見至上主義」を暴走させた原因のひとつとも言われる(ちなみに、整形しても就職できずに、今度は少しでも良い条件の男性を探して積極的に婚活することを「チジップ<취집、就職+結婚の合成語>」と呼び、嘲笑の対象となっていた)。
こうした流れは収まることなく年々拡大し現在に至っているわけだが、整形をあおる外見至上主義は「女の変身は無罪」といった広告コピーや「美人だから許す」といった類いのセリフを平気で口にするようなドラマを量産し、そこに潜む女性差別を、見えないものにしてしまうだろう。
そして近年は、「社会通念」と言ってもいいほど一般化しているのだ。このような状況は、本作で主人公のイェジが整形後の美女・ソレに変貌していく様子を通して生々しく描かれている。罵倒されたりバカにされたりしていたイェジが、「美しい」ソレに変わった途端、注がれる男たちの熱い視線は、イェジとしては味わったことのないものだった。当然ソレは、外見がすべてだと、ゆがんだ欲望に突き進むことになる。