芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国サイコホラーアニメ『整形水』が描く、“整形大国”になった儒教社会の落とし穴

2021/09/17 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

<物語> 

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 幼い頃、バレエの才能の片鱗を見せていたイェジは、外見による壁にぶつかり、それがすっかりトラウマとなってしまった。大人になった今は、人気タレント・ミリのメイク担当として働いている。ミリからは毎日のように罵倒され蔑まれるなか、偶然出演する羽目になったテレビショッピング番組で、悪意ある切り取られ方をしたイェジの姿がネット上に広まり、外見に対する悪質な書き込みでショックを受け、部屋に引きこもるように。

 そんなある日、ウワサで聞いていた「整形水」が、なぜかイェジのもとに届く。それに顔を浸せば、思うがままに簡単に、顔や体を変えられるという水だった。半信半疑ながらも試してみると、イェジは信じられない変貌を遂げる。変わる周りの視線。さらに美しくなるため、イェジは巨額の借金を重ねて整形水にのめり込む。だが、彼女の整形への欲望は、徐々に恐ろしい方向へと逸脱していく。

 ネットで大人気を集めたウェブ漫画『奇々怪々 整形水』(日本版は『奇々怪々』)を原作に、「美」へのゆがんだ欲望の行く末を描いた作品である。「外見ですべてを判断しようとする悲劇を伝えたかった」という監督の言葉通り、韓国での整形の現実を十分に反映していると高く評価され、上映館の少ない低予算インディーズ映画にもかかわらず、10万人以上の観客を動員するヒット作になった。また、アヌシー国際アニメーション映画祭をはじめ、世界有数の映画祭にも招かれるなど、海外でもその完成度や芸術性を認められた作品である。

 では、韓国で今現在のような美容整形がはやり始めたのは、いつごろからだろうか。整形手術の技術自体は西洋医学が到来したころからあったはずだが、新聞などの資料によれば、整形を促すような広告が目立つようになったのは1980年代からのようだ。ただし、これはあくまでも法的に問題のないクリーンな病院の広告であり、実は「ヤメ」と呼ばれる無免許の整形医は、それ以前から存在していた。「ヤメ」とは日本語の「闇医者」のヤミの韓国なまりで、「あそこの娘はヤメで鼻を直した」といった話を母から度々聞いたことをよく覚えている。

 その後、広告が格段に増え、実際に施術を受ける女性も急増したのは90年代半ばからである。当時を象徴的に物語るのが、96年にあるインターネット会社が始めた「整形手術情報サービス」。有名な医師の紹介や手術の後遺症、注意点から、避けるべきヤメの情報まで発信したこのサービスは、韓国ですでにどれほど整形が日常化していたのかを端的に表しているだろう。

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