韓国映画『シュリ』『JSA』 から『白頭山大噴火』まで! 映画から南北関係の変化を見る
ポストコロニアリズムの著名な理論家エドワード・サイードは、著書『オリエンタリズム』で「心象地理」という概念を展開している。西欧によって想像され描かれた東洋という地理は、あらゆる空想や作り話によって満たされた挙げ句、「実在する東洋」は消え、西欧によって想像された「東洋化した東洋」だけが残るというものだ。この理論に基づくならば、韓国に都合のいいように練り上げられた同一民族主義により、北朝鮮は「心象地理」になってしまうだろう。
ただし、西洋と東洋のようにかけ離れていない、隣り合っている南北では、白頭山大噴火のような両国にとって重大な事件が起こる場合には、最後の選択肢として「南北共闘」はまだあり得るのかもしれない。非現実的でしかない「南北統一」の幻想に冷ややかな視線を送りつつ、そう考えてしまう私もまた朝鮮民族の一員なのである。
最後に余談だが、「反・反共映画」で南北それぞれの要人を演じる俳優を並べてみると、興味深い共通点が浮かび上がってくる。イ・ビョンホン、チョン・ウソン(『鋼鉄の雨』)、カン・ドンウォン(『義兄弟』)、ヒョンビン(『コンフィデンシャル/共助』)と名だたる二枚目俳優が北側の人間を演じているのに対し、南側の人間を演じるのはハ・ジョンウ、クァク・ドウォン(『鋼鉄の雨』)、ソン・ガンホ(『義兄弟』)、ユ・ヘジン(『コンフィデンシャル/共助』)と、超がつく名優ながら容姿的には決して二枚目ではない(私はこっそり“じゃがいも顔”と呼んでいる)俳優たちばかりだ。
もちろんこの図式が当てはまらない作品もあるし、個々に異論もあるだろう。だがこのようなキャストをもってくることで、それまでの「反共映画」とは違うのだという作り手側の意図が一目瞭然になるとともに、北の軍服に身を包んだイケメンたちに観客がうっとりする効果を発揮するのは言うまでもない。
崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。