高橋ユキ【悪女の履歴書】

舌を噛み切り、喉に包丁を突き立て……団地ママ友3人の深い情欲と恨み【福岡 レズビアン殺人事件:後編】

2021/08/28 17:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

「とうちゃんをよその女に取られたよりもくやしい」と美里は泣いていた

 夫が留守の間に関係を持っていたふたりのことを、近所の主婦たちは知っていた。もちろん、それは美里にも知られるところとなる。事件の起こった2月、美里が突然、悦子さんの家を訪ねてきて「紀子さんとの交際をやめなければ主人に知らせる」と告げたのだという。悦子さんはもちろん、夫に紀子さんとの関係を明かしてはいなかった。

「突然、家に来て『別れるように』って……ヒステリックに叫ぶんです。
 私、びっくりして……紀子さんにそのことを話したんです。そしたら『心配しなくてもいい。私がキチンとするから』っていうんで、安心してたんです……それが……こんなことになってしまって……」

 こう話しながら悦子さんは泣く。

 恋人だと思っていた紀子さんに別の恋人ができた。「とうちゃんをよその女に取られたよりもくやしい」と事件前、美里は泣いていた。事件の朝、6畳間の布団で美里がキスを求めたとき、紀子さんは別れを告げた。嫉妬と悔しさが爆発した末の犯行だったが、これもまた、団地の主婦たちのうわさとして語られ、いつしか忘れられる。

※レズビアン殺人との名称は、今日では差別意識を助長する表現ですが、1973年の時代背景と社会状況を伝えるため、当時の報道の文言を引用することとしました。


【参考資料】
「週刊大衆」1973.3.22号 (双葉社)
「女性セブン」1973.3.21号 (小学館)
「微笑」1973.3.31号 (祥伝社)
「女性自身」1973.3.31号(光文社)

高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

傍聴人・フリーライター。2005年に傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。著作に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

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最終更新:2024/01/16 14:27
つけびの村
どんなうわさもいつか忘れられる