コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

「震えた字で『父ちゃんのバカ』って」――母は晩年、夫が浮気相手と一緒にいるという「幻覚」を見ていた

2021/07/04 17:00
坂口鈴香(ライター)

 父親の治療中、母親も井波さんの家で過ごすことになり、一安心した井波さんだったが、母親にも新たな病気が発見された。父親が通院する病院で再度診察を受けたところ、パーキンソン病だけでなく肺高血圧症という病気もあることが判明し、即入院となった。心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が高くなる病気で、軽い動作でも呼吸困難や疲労などが起こる難病だった。

 数カ月後父親の治療が終了し、父親は実家に戻った。それからさらに数カ月して、母親も薬の調整や酸素吸入の設備を整えて実家に戻れることになった。

 しばらく両親は穏やかに暮らしていたが、母親の状態が再び悪化した。血中酸素の量が低下し、救急車で井波さん宅近くの病院まで運ばれてきた。

「再入院となったんですが、次に退院できてももう実家に帰るのは危険だということになり、母はうちと同じマンションの上の階に部屋を借りて住むことになりました」

 仲の良い両親だったので、母親は父親がそばにいないことを寂しがった。父親も妻のために時折この部屋にやって来て、しばらく滞在することもあった。

「父にとって、うちのマンションで過ごすのは退屈なんですが、魚好きな父が唯一楽しめるのが近くでやっている朝市でした。私は5時前に起きて父を朝市に連れて行くのは億劫でしたが、夫は『行けるときに行っておいたほうがいい』と父に付き合ってくれて、これにも頭が下がりました」

――続きは7月18日公開

 

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/07/04 17:00
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