芸能
崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

ホン・サンス作品の神髄『ハハハ』――儒教思想の強い韓国で、酒と女に弱い“ダメ男”を撮り続ける意味とは?

2021/05/28 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 本作で、世間から見ればそれなりに立派な映画監督であるムンギョンは、人前で母に(おしりではなく)足のすねを叩かれて臆面もなく泣きだし、情けないくらいのマザコンぶりを発揮したかと思えば、ソンオク(ムン・ソリ)を追いかけ回して1日を過ごす。先輩のチュンシクもまた、鬱病を抱えているうえに不倫中で、愛人のヨンジュ(イェ・ジウォン)を休暇先に誘ったはいいものの、結婚を迫られてケンカになり、その直後には互いの愛を確認して甘えたりと、理性のかけらもない。挙げ句の果てには2人の関係を親族に暴露し、酔って大醜態をさらす。もう一人の男性キャラクターであるジョンホ(キム・ガンウ)は、詩人というロマンチックな肩書を利用して2人の女性キャラクターの間を巧みに行き来するが、そこに罪悪感は一切ない。

 そんな彼らには「家長」の役割など到底果たせそうにないし、彼ら自身にもそんな自覚などさらさらない。最も理想的な男として、韓国人の誰もが尊敬してやまない歴史上の人物イ・スンシン将軍が不自然な形で劇中に登場するのは、映画の男たちのだらしなさを際立たせるために計算された演出といえるだろう。

 本作に限らず、ホン・サンス映画におけるほとんどの男たちが「泣く・甘える・すねる」という行為で形作られている点は注目に値する。なぜなら、これらの行為こそが、聖域化・特権化された「男」にあってはならない非家父長的な特徴だからだ。韓国には「男が泣くのは一生に3回だけ。生まれたとき、親が亡くなったとき、国が滅びたときだ」という言い回しがある。男はたやすく涙を見せてはいけないということを、極めて儒教的に表したこの言葉を揶揄するかのように、ホン・サンスの男たちは事あるごとに泣く。それも、実にどうしようもないような理由で涙を流すのだ。

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