芸能
崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』
大泉洋ら出演『焼肉ドラゴン』から学ぶ「在日コリアン」の歴史――“残酷な物語”に横たわる2つの事件とは
2021/05/07 19:00
作中の言葉を借りるならば、日本に来てひたすら「働いて働いて」生きてきた龍吉は、戦争が終わり朝鮮半島に引き揚げようとしたものの、梨花が風邪をひいて船を一便遅らせたところ、前の便が沈没したため帰れなくなり、財産もすべて失ったと語る。当時、機雷や強風、高波による帰国船の沈没事故は度々発生しており、特に不思議ではないのだが、中でも最も悲劇的だったのが、45年8月24日に起こった「浮島丸事件」だった。大勢の朝鮮人労働者を乗せて青森を出港し釜山に向かっていた浮島丸は、米軍が海底に敷設した機雷と接触して爆発、沈没して朝鮮人524人と日本人船員25人が犠牲になったとされるものだ。
だが韓国側は、日本政府がこの事件を隠蔽、矮小化したとして、実際は「自爆による沈没」とか、「犠牲者は5,000人以上に上る」と主張しており、事件から75年以上がたった今でも、日韓で大きな食い違いを見せている。船体は54年に引き揚げられ、沈没した舞鶴の港などには慰霊碑が建てられて、毎年追悼式も行われている一方で、日本に安置されている遺骨の返還問題も未解決のまま残り、生存者の高齢化や死亡が進むなか、真相究明は今後ますます難しくなるに違いない。
最近では、市民団体が「浮島丸の沈没は朝鮮人虐殺だ」と世界に向けて発信する計画が浮上するなど、事件の見直しを求める動きも活発化。龍吉が乗ろうとした船が「浮島丸」だったかどうかは語られていないが、少なくとも、在日コリアンが生まれた要因のひとつに「度重なる帰国船の沈没」があったことは確かである。