「売春島」の娼婦だった母と4人の女を描き、“女の性欲”を考えさせる『うかれ女島』
三重県に実在する「売春島」と呼ばれる島をご存知だろうか。1970〜80年代の最盛期には人口200人の島に70人近くの娼婦が住んでおり、小さな島内で売春産業が栄えていたという。
なぜ女たちは島に集まり、毎夜男とセックスをして金を得ていたのだろうか――。女が「見ず知らずの男と寝る」場合、たいていこの疑問が湧く。男の性欲とは違い、女の性欲には何らかの「理由」を必要とする人が多い。女たちは、なぜセックスを売っていたのだろうか。
今回ご紹介する『うかれ女島』(花房観音・著/新潮文庫)は、売春島で女衒として生きた母を持つ男が主人公の物語だ。
3カ月前、主人公の大和は母親が亡くなったという事実を知る。学生時代に絶縁状態になった大和の母親は「売春島」と呼ばれる島で娼婦をしていた。大和が生まれる前から性風俗業に従事していた母は、大和を祖母や親戚の元に預けて働いていた。
「真里亜」という名を名乗り、娼婦として島で生き、引退後はやり手婆として女たちの世話をしていた大和の母。島の入り江で溺死体となって発見された母と対面した大和は、母から一通のメモを託される。そのメモの中には、島で娼婦をしていた4人の女の名前が書かれていた。
一流企業の会社員や女優、主婦などになった4人の中で、唯一、島を出た後も娼婦を続けているのは43歳の忍だ。シングルマザーの忍は母に子を預け、体を売る傍で保育所も経営し、かつて風俗店で働いていた有資格者の女たちを保育士として雇っている。そんな彼女の元に大和から手紙が届き、島で世話になっていたやり手婆の「真里亜」が亡くなったことを知る。
物語は、4人の女たちと真里亜の死の秘密に迫り、進んでゆく。金のため、男のため、あらゆる理由で男たちに抱かれていた女たちの中で、忍は「性欲のため」だけに体を売っていた。体を売って生きた母を憎む大和と、男に抱かれることが唯一無二の快感である忍の、後半の対峙は爽快だ。「娼婦の母」という十字架を背負った大和が忍に打ち明けた結末とは――。
大和の母の源氏名「真里亜」は、聖母マリアではなく、男の欲望を受け止めた殉教者「マグダラのマリア」が由来であり、本作の軸となるこのエピソードとなっている。
この物語は、改めて女の性欲について考えさせられる一冊である。