“飯テロ”エッセイ『きょうの肴なに食べよう?』『キッチハイク!突撃!世界の晩ごはん』、日常のなにげない「おうちごはん」が愛おしくなる
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。
どの国に住んで、どんな暮らしをしていても、生きていれば欠かせない「食」。食事は世界共通の楽しみだ。外食もままならないこの時期、自宅で作るなにげない日常の食事とあらためて向き合った人も多いだろう。今回は、海の向こうの“日常の食事”を通して、読後には日々の食事がもっと愛おしくなる“飯テロ”なエッセイ3作を紹介したい。
■『きょうの肴なに食べよう?』(著:クォン・ヨソン、翻訳:丁海玉/KADOKAWA)
【概要】
韓国の人気女性作家がつづるリアルな韓国の食エッセイ。腸詰め、ギョウザ、ノリ巻き、お粥と塩辛、水冷麺、激辛青唐辛子……。どんな食べ物にも、味の中には人と記憶が潜んでいる。韓国の人気作家が綴る韓国の食エッセイ。
韓国好きは必見の『きょうの肴なに食べよう?』
『きょうの肴なに食べよう?』は、ソジュ(韓国焼酎)をこよなく愛する韓国人女性作家による、日々の食にまつわるエッセイ。日本でも定番的人気を誇る韓国料理だが、本作に出てくる食事は、韓国料理店に出てくるようなメニューよりもっと日常に根差したものだ。ごく普通の韓国女性が、自宅の冷蔵庫に置いてある食材で作ったり、普段着で出かけるような飲食店で食べる、飾らない食事の様子が季節を追って生き生きと綴られている。
もともと病弱で偏食家だった著者の食生活は、大人になり酒を覚えたことで急速に発展する。今まで食べられなかったものが、「酒の肴」として愛すべき食材に変わっていったのだ。彼女にとってすべての「家ごはん」(=家で作って食べる食事)は、ソジュをおいしく飲むための酒肴だ。料理好きの著者による派手ではないが豊かな食生活や、食べ物にまつわる思い出はどれも食欲をそそられる。
美しい大人の女性がかぶりつく、切り分けられていないノリ巻き(キムパプ)、夏場に母を思い出しながら調理する作り置きメニュー、中学生の時に友達とケンカしたまま食べたピビン冷麺とオムク麺、選挙の時だけ必ず作って食べるスルメの天ぷら――日本では聞きなれない料理や食材も頻出するが、著者が食を通して紡ぐ思い出と見知らぬ味は不可分に絡み合い、不思議と鮮やかな印象を残す。韓国料理に詳しくなくても、著者とともに食べたような感覚を覚え、知らず知らずのうちに読者自身が眠らせていた食の思い出も掘り起こしてくれるだろう。
そんな少女時代の食卓の幸せもふんだんに語りつつ、単純に家庭食の礼賛では終わらないところも本作の魅力だ。「家ごはんの時代」の章では、幼少期に著者の味覚を育ててくれた母親が宗教に傾倒し、戒律によって肉類や香味野菜が食卓から消えた経緯が淡々と綴られる。著者が日々の食卓を再び愛せるようになったのは、20代後半に一人暮らしを始め、半地下の部屋で小さな自分の台所を持つようになってからだ。
「家ごはんは絶対おいしい。そう信じる人は幸せな人に違いないが、正しくはない」と語る彼女にとって、「家ごはん」の幸せはよくある“おふくろの味”を意味しない。そこには自分で食べるものを自身でコントロールする喜びが含まれているから、彼女のエッセイにはからっとした自由があり、国境を越えて普遍的な共感を呼ぶ。食にまつわる甘い思い出も苦い思い出もまとめて、複雑な深い味わいを楽しめる1冊だ。
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