「オレの正体をいま話して聞かせる」94歳オンナ詐欺師、最後の大ボラ! 商店街を主婦を巻き込む大脱走劇【岡山・高齢女性詐欺師:後編】
(前編:94歳、“オンナ詐欺師”の仰天「ホラ吹き」人生ーー「年寄りには親切に」を逆手に)
商店街の人々を丸め込む、得意の「手段」
市内に住むAさんはこのころ銭湯で、滝本キヨと名乗るトミヨと出会った。年を聞いて驚いた。なんと94歳だというのだ。
「10歳は若く見えますよ」
「ふふふ、そうだろうねえ」
トミヨは年齢を逆に“水増し”することで、相手の警戒心を弱めていた。
さらに駅前商店街にふらりと現れ、そこでも“仕掛け”を続ける。ちり紙を買うにも分厚い札束をチラリと見せ、ときには、札束の包みを店先に忘れ、すぐに取りに戻って、こうトボける。
「やれやれ、94歳にもなるとボケちゃって。天涯孤独で金ばかりあっても、どうしようもないよ。あっはっは……」
寿司屋では、500円の寿司を食べても千円札を投げ出し、きっぷの良さを見せつける。
「お釣りだって? いらないよ。オレは江戸っ子だよ」
こんなふうに存在感を示しながら商店街を練り歩くが、トミヨはよたよた歩きでよく転ぶ。通りがかりの女性が助け起こすと、その手を振り払って「何するんだい。親切そうな顔して、本当は私の財産を狙ってるんだろ? 銀座の土地かい? 株券かい?」などと叱り飛ばす。
「まあ、何を言うんです。私はただ、お年寄りだと思ったから……」
女性が憤慨していると、トミヨはじっと女性を見つめ、ぽろりと涙を流しながら言うのだった。
「ごめんなさい。本当に親切心で助けてくれたのかい。ああ、若いのにやさしい人だ。あなた、住所と名前を教えておくれ。私はもう94歳。明日にも死ぬ身だ。でも天涯孤独で遺産を譲る相手もない。今のあなたの親切、忘れずにお礼をしますよ……」
この手を使えば、住所と名前を教えない者はいなかった。
また銭湯で出会った先のAさんは、後日、商店街でトミヨにこんなことを頼まれた。
「岡山の人は親切じゃと聞いたが、このあたりで余生を送りたい。どこぞに間借りをお願いしたい。金は十分銀行に預けてあるから、利子だけで生活できる」
品のある和服に白足袋姿のトミヨを、Aさんもすっかり信用した。そしてGさん夫妻にも話した“銀座のタバコ屋”を話題にする。これはトミヨの定番ストーリーだったようだ。
「銀座に持っていた数十坪の土地を最近処分してな。いくら入ったかって? 考えてごらんな、天下の銀座だよ、計算すればわかるだろ」
「銀座に菊水というタバコ屋があってな。今改装中だが、それが終わると、そこの社長に収まることに決まっててな」
などと言っては、岡山から東京に出て行くたびに、海外のタバコを仕入れ、戻っては「ここの株を持っているが、これは配当代わりに送ってきたもの」と言ってばらまき、皆を信用させていた。
こうして機が熟した頃、詐欺に乗り出す。